本の覚書

本と語学のはなし

フランス語


 学生時代、フランス語は私にとって学びにくい言語だった(今ではその理由がよく思い出せないが、動詞活用のせいではない)。どこか馬鹿にしているところもあった(「軽薄な感じ」というのは、おそらくフランスに依拠する人間によって醸成されたイメージであったろう)。
 選択の失敗に気付き大学を去ろうとしているさなか、『狭き門』を読んで初めてフランス語を理解し始めた。初めてフランス語に慰められた。


 今は『異邦人』を読んでいる。
 フランス語は感傷を呼び起こさない。しかし、ため息が出る。ここではカミュの乾いた文体の力も大きいのであろうが。


《Un peu plus tard, pour faire quelque chose, j’ai pris un vieux journal et je l’ai lu. J’y ai découpé une réclame des sels Kruschen et je l’ai collé dans un vieux cahier où je mets les choses qui m’amusent dans les journaux. Je me suis aussi lavé les mains et, pour finir, je me suis mis au balcon.》


 2つの〈pour〉が実にいい。
 なお、基本動詞〈mettre〉(あるいは名詞〈mise〉)の感じが分かるだけで、フランス語の理解はぐんと深まるはずである。ここでも2回使われている。


 フランス語はいずれまた哲学・思想に戻るだろう。