本の覚書

本と語学のはなし

se faire+不定詞?


  アフガニスタン自爆テロを決行するのは、他の地域と違って、貧しく教育も受けていない少年たちであるという内容のLe Mondeの記事(12.9)より。


《Le rpport évoque de « récentes informations sur de jeunes garçons recrutés pour des mission-suicides » , et ce, « en dépit de l’engagement affiché des talibans de ne pas utiliser des garçons trop jeunes pour se faire pousser une barbe » .》


 文法的に説明できないのが〈pour〉以下。〈trop〜pour不定詞〉は英語の〈too〜to不定詞〉に相当するので、「髭一本すら(une barbe)生えない年齢の少年は使わない」というほどの意味になるのだろう。
 よく分からないのが、〈se faire+不定詞〉である。朝倉の『新フランス文法事典』では3つの用法が紹介されている。


①〈se〉が不定詞(他動詞)の直接目的語になる場合。
 Votre soer se fait attendre.(あなたのお姉さんは人を待たせますね)
②〈se〉が不定詞(他動詞)の間接目的語になる場合(直接目的語を伴う)。
 se faire voler ses bijoux(宝石を盗まれる)
③〈se〉が不定詞(自動詞)の主語になる場合。
 Voilà qu’il voudrait se faire passer pour le Carnal.(今や彼は枢機卿とみなされたいのだ)


 さて、まず〈pousser〉は他動詞だろうか、自動詞だろうか?
 『スタンダード』によれば、普通「押す」と覚えているこの動詞には、他動詞として「(植物が芽・根などを)出す;(子供が歯を)出す」(ただし稀)、自動詞として「(草・歯などが)生える;(髪などが)伸びる」という意味があり、後者の例文としては〈laisser pousser sa barbe〉(ひげが伸びるにまかせる)が載せられている。
 構文からみて可能性が高いのは②である。つまり、〈se〉は、〈se faire couper les cheveux〉(髪を切ってもらう)におけるそれのように、体の部分の所有を表す間接目的語となる。難点は、辞書には他動詞として髪や髭を生やす意味が出ていないこと。意味上の主語は〈se〉と一致するはずであるにしても、意味が取りにくいこと。ずばり〈se〉を意味上の主語とするほうがまだ分かりやすいが、それは許されないことなのだろうか? 〈Il lui fait taper la lettre.〉(彼は彼女に手紙をタイプさせる)という表現は可能である。いずれにしても、使役とか受身の意味を教科書どおりに考えることはできない。
 ③はありえないのだけど、辞書によって支持される自動詞の線まで消えてしまうのだろうか? つまり、〈une barbe〉を主語と取るのである。〈Je fais venir ma soer.〉(妹を越させる)は可能である。〈se〉は体の部分の所有を表すにしろ、単に関心や利害を表すだけにしろ、間接目的語で決まり。それでも意味は取りにくいが、幾分すっきりとはする。
 私には何が正しいのかよく分からない。フランス語として普通に通じる言い回しなのか、タリバンによるアラビア語(?)の語法を直訳した不自然なフランス語なのかも判断しかねる。