How to Read a Chinese Poem: A Bilingual Anthology of Tang Poetry
- 発売日: 2007/08/03
- メディア: ペーパーバック
Edward E. Chang 『 How to read a Chinese Poem 』。左ページの上段に、簡体字と繁体字で原文が並び、下段に英訳。右ページには、平仄記号の付いた繁体字の原文の下に、ピンイン、英語の逐語訳、簡単な注釈がついている。
我々は訓読することによって、漢詩を日本語として読むことができる。ありがたいことだ。しかし、そのことによって語学的な問題には疎くなり、更に悪いことには、詩の本来持つ音楽性からも甚だ遠ざけられてしまう。
杜甫「春望」の前半を見てみる。
國△破△ 山○河○在△
guó pò shān hé zài
coutry ruined mountains and rivers remain
城○春○ 草△木△深●
chēng chūn cǎo mù shēn
city in spring time grass and trees grow deep
感△時○ 花○濺△涙△
gǎn shí huā jiàn lèi
facing hard times flowers trigger tears
恨△別△ 鳥△驚○心●
hèn bié niǎo jīng xīn
hating separation birds startle my heart
「国破れて山河あり、城春にして草木深し。時に感じては、花にも涙をそそぎ、別れを恨んでは、鳥にも心を驚かす」。あまりに有名で、これはこれで動かしがたい。ただ、素読をする人はともかく、読み下しだけに親しむと、「花濺涙」や「鳥驚心」が単純な〈主語+動詞+目的語〉という構文であることを見落としてしまうだろう。「花にも」や「鳥にも」では「遅い遅い」と言いたくなる気はする。その点、同じ表現のできる英訳は端的である。
現代の音は唐代とは違う。「深」と「心」が韻を踏んでいることは、現代音では分からない。当時の音をある程度保っている日本語の方に優位性があるようにも見える。ただ、いくら素読しようとも、我々はイントネーションまでは輸入しなかった。だから平仄の方はよほど訓練を積まないと、素人にはまったく理解できない。ところが、現代語の一声と二声は平声にあたり、三声と四声とは仄声にあたる。現代語からアプローチするという発想さえ持てば(英語話者にとっては、それしか発想の仕方がないだろうけれど)、平仄も実はそれほど難しい問題ではない。
『漢詩の世界』のCDでは、この詩の日本語朗読、日本語吟詠、中国語朗読、中国語吟詠、唐代復元音朗読を聞き比べることができる。日中の吟詠の違いには啞然とせざるを得ない。私にはどうしても喉を思い切り唸らせるのが漢詩だとは思われない。