本の覚書

本と語学のはなし

『木曜日だった男』


チェスタトン『木曜日だった男 一つの悪夢』(南條竹則訳、光文社古典新訳文庫
 ひょんなことから無政府主義者の会合に出席し「木曜日」になったサイム。奇想天外、荒唐無稽な冒険譚が綴られるが、単にミステリーというだけでなく、思想の書としても読まれるべき本である。
 小学生のころ、多分子供向けに手を加えたテキストだと思うが、ブラウン神父シリーズを読むのが好きだった。推理そのものよりも(今読み返すと推理小説としては納得できない部分もある)異文化との接触に興奮していたのだ。今では私自身カトリックとの邂逅も経験しており、もはやひたすらエキゾチックな感興を呼び起こす魔力はチェスタトンにはないと予想していたが、それは浅はかであった。私がかつてカトリックであったとしても、彼の脳内に構築されたものの風景を前にしては、私は永遠に異邦人である。