本の覚書

本と語学のはなし

『すべての経済はバブルに通じる』 〔38〕


小幡績『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書
 著者は個人投資家としても活動する行動ファイナンスの専門家だそうで、今回の金融危機を引き起こしたバブルを、投資家心理を抉り出しつつさながら実況中継のように活写している。
 サブプライムショックの本質は、リスクテイクバブル(著者の造語)とその崩壊であったという。

 リスクテイクバブルとは何か。それは多くの投資家がリスクを求めてリスク資産に殺到し、それによりリスクがリスクでなくなり、結果的に彼らすべてが儲かることとなり、さらに他の投資家も含めてリスクへ殺到する状況を指す。(60頁)


 本来証券化商品への投資はキャッシュフローが確実に得られるかどうかに関するリスクであるはずだが、ここでは他の投資家に売れるかどうかに関するリスクに変質してしまうのだという。
 だが、それはたまたま起こったのではない。リスクテイクバブルは、まるで癌のように自己増殖をし投資機会を食い尽くす金融資本を特徴とするキャンサーキャピタリズム(これも著者の造語)の必然的な発現である。

 キャンサーキャピタリズムの病が癒えるのは、この病に蝕まれた既存の金融資本が一度消滅してからとなろう。いくつかの投資銀行の破綻などにその兆候は現われているが、さらなる発症が続くであろう(243頁)


 とはいえ、今回のリスクテイクバブルはまだ第一弾にすぎない。

 キャンサーキャピタリズムの完治はいつか。それは意外と遠いようで近い気もする。しかし、それまでには、これまで以上の激痛と悶絶を経なければならないだろう。少なくとも、その覚悟だけは、我々は今からしておかなければならない。(244頁)


 どうせ対策などできないのだから、諦めて嵐が過ぎ去るのを待とうということなのだろうか。結論はあっさりしすぎていて拍子抜けする。だが、実体経済と金融資本の主客逆転現象が元に戻ることがキャンサーキャピタルの終焉であると考えているようだから、タイトルから想像されるようなアンチ資本主義の思想ではないのである。