本の覚書

本と語学のはなし

『小論文を学ぶ』


●長尾達也『小論文を学ぶ―知の構築のために―』(山川出版社
 樋口裕一の本*1ディベート的で、イエスとノーの両方のキー概念を書き出し、自分の普段の考えとは関わりなく論じやすい方を採用することを勧めていた。したがって、すべての例題に双方の立場から書かれた2種類の模範解答が用意されている。小論文対策として最初に読む本と位置付けられているからそうなのか、樋口の本は全部そうなのかは分からないけど。
 長尾達也の本は全く違う。小論文とは単なる知の遊戯ではなく、前の世紀の後半から大きく変貌しつつある世界観についての自覚を問うものであるという信念のもと、近代的な知から20世紀的な知への転回を詳細に論じる。だから大半は倫理の副読本みたいな体裁になっている。当然ながら、模範解答は古い概念を批判し、新たなパラダイムの可能性に言及するという構図の1種類のみだ。汎用性は高そうなので、小論文を課す難関大を受験するなら目を通しておいたほうがよい。
 しかし、試み自体は悪くないのだけど、記述がかなり冗長なので受験生にとっては読むのが辛いのではないだろうか。その割に肝心なところでは言葉が不足している感もあって、結局よく分からないということになるかもしれない。簡潔にまとめて分量は半分にしてもらいたいところだ。公共性の盾を最大限に利用したがる人ではないかと思わせるあたりもちょっと不穏。個人的には意地の悪そうな口吻が生理的に好きになれない。

小論文を学ぶ―知の構築のために

小論文を学ぶ―知の構築のために