本の覚書

本と語学のはなし

【ギリシア語】胸の内は憤怒の念に黒々とふくれ上がり【イーリアス1】

 『イーリアス』第1巻101-104行。ロエーブの原文と岩波文庫の松平千秋訳。

τοῖσι δ᾽ ἀνέστη
ἥρως Ἀτρεΐδης εὐρὺ κρείων Ἀγαμέμνων
ἀχνύμενος· μένεος δὲ μέγα φρένες ἀμφὶ μέλαιναι
πίμπλαντ᾽, ὄσσε δέ οἱ πυρὶ λαμπετόωντι ἐΐκτην.

その時アトレウスの子、広大な国土を統べる勇士アガメムノンが、憤然として一座の中に立ち上がった。胸の内は憤怒の念に黒々とふくれ上がり、両の目は燃えさかる火のよう。(p.15-16)

 アキレウスの求めに応じて、予言者のカルカスがギリシア方を襲う疫病の原因を究明する。アガメムノンクリュセスの娘を返しもせず、身の代も受け取らず、このアポロンの神官に恥辱を加えたためであるというのだ(ホメロスは疫病を、アポロンが次々に射る矢をもって表現する)。
 するとアガメムノンは怒りに燃えるのである。「両の目」とあるのは、いわゆる双数の形である。動詞も双数が使われている。時代が下るとあまり見かけなくなるが、ホメロスでは時々出てくる。二つのものをセットで表すときに、単数でもなく、複数でもない双数が使われるのだ(長らく触れていないが、サンスクリット語にもあるはずだ)。


 さて、今朝、現場責任者に退職の意思を伝えた。アガメムノンのように怒りはしないけれど、両の目にはやはり不快感がにじんでいたように思う。
 先月末に会社に退職の話をした。一旦は残ることに渋々同意した。だが、だめなものはだめだった。安定を捨てても悔いはない。それほど私には合わないのである。
 明日、本社の偉い人と面談をする。どういう展開に持ち込もうとするのかは分からないが、短い期間の内に二度も退職すると言ってしまったのだから、私としてももう引っ込めるわけにはいかない。
 ほっとしてはいる。しかし、これから金銭面においては、茨の道が待っているかもしれない。