なぜか後者の書名は一度も触れられない。潮出版社の全集第13巻とあるだけだが、巻末の引用元から辿ると、該当ページはこの格言集に当てられている。
解説と言っても、齋藤孝が思いっきり自分に引き寄せて咀嚼したものであるから、ゲーテの解説というよりは、そこから引き出した著者なりの上達の哲学を開陳したものである。
したがって、最初にゲーテの言葉を引用した後は、だいぶゲーテから離れてしまう。ほとんど枕のようなものである。それは齋藤孝にとってゲーテが既に彼の血肉と化しているということなのかもしれない。
だが、物足りないといえば物足りない。私がこの本に見出すのは齋藤孝であって、ゲーテを読む楽しみについては教えるところが少ないように思われるからだ。
普段から言葉の端々にゲーテの言葉を引用できるようになると、それはまさにゲーテという遺産を受け継いだことになる。ゲーテほどの遺産を受け継いでいるとなると、かなり大きいものを受け取った気がする。シラーでも結構いいが、やはりゲーテの方が遺産としては大きいように思う。私とゲーテの関係は、血縁でも何でもないが、これだけ彼の言葉が血肉になっていると、もはや血がつながっているかのように思えてしまう。(p.93)