本の覚書

本と語学のはなし

ゲーテ格言集/高橋健二編訳

 ゲーテにははじめから格言として書かれた詩や散文がたくさんあり、この本に収められた言葉の半分はそうした格言集から採られている。後の半分は、詩、戯曲、小説、手紙、対話などの中から。
 高校生の時に初めて読んだ。深く共感した。たぶん「没我」の思想の故である。

私が特にスピノザにひきつけられたのは、その一句一句から無際限な没我主義が輝き出ていたからである。「真に神を愛するものは、神からも愛されることを願ってはならない」というあの感嘆すべきことばは、その一切の前提と、それから生ずる一切の帰結と共に、私の瞑想をくまなく満たした。何事にかけても没我的であること、愛と友情にかけて最も没我的であること、それは私の最高の喜びであり、私の格言であり、私の実行であった。それゆえ、「私がお前を愛したところで、お前に何のかかわりがあろう」という後年の大胆なことばは全く私の衷心からの声だった。(p.129-30, 『詩と真実』第3部第14巻から)

 今回は何度目かの再読である。共感もすれば反発もする。私にも書けそうだと思ったり(名人の仕事はやさしそうに見えて、とうてい真似のできぬものではあるが)、社会への没我が私にはあまり向いていないようだと考えたり。
 没我が女性に適用されるとき、必然的に伝統的な家庭での役割が最善のものとして与えられる。家庭の支配ということに、女性の至高のはたらきを見ようとする。一種の女性崇拝ではあるのだが、もはやオフィシャルに表明できるような主張ではない。


 ゲーテを続けるかどうかは未定である。仮に諦めるとして、それはゲーテの女性の好みが気に入らないなどという理由ではない。
 時間は限られている。学び得ることも限られている。取捨選択が必要であるというだけである。