後者の方を先に読んで記事にもしているので、ここでは『アエネーイス』についてだけ書いておく。
『アエネーイス』の主人公はアエネーアース。トロイア戦争で敗北したトロイア方の英雄である。陥落する都を脱出し、海を渡ってイタリアの地に辿りつき、ローマ建国の祖となった。
彼がトロイアから連れてきた子どもの名はユールスという。ユリウス家はここから出たと信じられていた。したがって、アエネーアースはカエサルやアウグストゥスの祖先ということになり、その血は英雄を身ごもった女神ウェヌス(ヴィーナス)にも繋がっていたのである。
翻訳は泉井久之助。岩波文庫版(こちらも絶版であるが)の元になった訳である。
特徴は七五調の韻文で綴られていること。学生時代にも読んだが、原文が詩であるからと言って七五調はやりすぎではないかと思った。
今回は不思議と気にならなかった。むしろ慣れてしまうと中毒を起こしてしまって、他の文章を読むときですら七五のリズムを探してしまうほどである。文章の構造が分かりにくいところも多少あるが、先を急いで逸る学生時代の読書とは違って、今は落ちついて何度でも読み直すから、それもあまり問題にはならなかった。
物語はアエネーアースが敵にとどめを刺したところで唐突に終わるようであるが、泉井久之助の解説によれば、それはウェルギリウスの構成の意図したところであって、『アエネーイス』が未完であることによるのではない。
作品が未完成であるのは、細部の彫琢が完全には終わっていなかったというだけのことであり、詩人が死の床にあってしきりにこれを炎に委ね、灰燼にしたがったからといって、一般の目にはほとんど不完全な作品と見なすことはできないのである。
かくいいながら猛然と、
剣を胸の正面に、かくれるばかりに埋め込む。
敵の五体は冷え冷えと、なって次第に力抜け、
うめきと共に生命は、怒りを含んで霊たちの、
国へくだって逃げてゆく。(最終第12巻の末尾)
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