本の覚書

本と語学のはなし

人と思想169 モンテーニュ/大久保康明

 モンテーニュ入門というのはそんなに必要ない気がする。時代背景と生涯を少し押さえておくだけでよい。あとはモンテーニュ自身に語らせればよい。読み取りにくいとすれば、それは彼が難解な思想家だからではなく、エッセーという彼の試みのスタイルのせいである。
 大久保康明の師匠は荒木昭太郎だそうである。『エセー』の全訳は、関根秀雄、原二郎、宮下志朗によってなされているが、荒木の抄訳もまた重要な訳業に数えられている。中公クラシックス(3分冊)で読むことができる(私は持っていない)。テーマごとに編集されているので、元の順番には従っていないようだ。
 昔、荒木の『モンテーニュ』(中公新書)を読んだことがある。投げ出しそうになった。あやふやな記憶ではあるが、何を知っているか、いかなる権威を持っているかを誇示するためだけに書かれた本のように思われた。引用の翻訳も、とても日本語とは信じることができない代物であった。
 当時に比べれば遥かに寛容になっているから、今なら再読しても悪態をつきたくなることもないかも知れない。しかし、弟子の文章を読む限り、あえて挑戦してみようという勇気を奮い起こすことは出来ない。