本の覚書

本と語学のはなし

異常気象と地球温暖化/鬼頭昭雄

 巻末の紹介文によれば、著者はIPCC第1作業部会(科学的根拠)第2次から第5次評価報告書の執筆者を務めたとのことであるが、この本の出版年は2015年である。その後、21年の第6次評価報告書にも参加しているようだ。
 今週の朝日中高生新聞とこの本の92ページの記述をまとめると、最初にIPCCの報告書が出されたのは90年。その時、人間による影響は「気候変化を生じさせる恐れがある」と控えめに評価された。第4次では「可能性が非常に高い」(確率90%以上)、第5次では「可能性が極めて高い」(95%以上)と段々高くなり、そして昨年の第6次では「疑う余地がない」と言い切った。もう人間の活動が原因か否かという議論をしている段階ではないということだろう。


 異常気象は温暖化に関係なくありうることだし、気象のメカニズムは複雑であるから、全てを温暖化に結びつけて考えるべきではない。この本では、先ず気象の基礎や、これまでの地球の気候の変化を扱う古気候学を学ぶことになる。
 その上で、今後地球及び日本の気候はどうなっていくのか、IPCCのシナリオを基に、気候モデルによって分析した結果を見ることになる。
 ちょっと長いけれど、本書の末尾の文章を書き抜いておく。

 IPCC第5次評価報告書は、工業化以降の地球平均気温を2℃以下に抑える道筋があることを示しました。想定に不確実性はあるものの、現在の最先端の科学の下では、温室効果ガス排出量を炭素換算で7900億トン以下に抑えることが必要です。そのためには、世界的な温室効果ガス排出量を、2050年に2010年レベルの半分ほどにし、今世紀末にはほぼゼロにする必要があります。今後数十年間の大幅な排出削減が、気候リスクを減らし、適応を効果的にし、長期的な緩和にかかる費用と課題を減らすことが出来るのです。
 しかし、現実問題として、2℃以下に抑えることは、私には難しいと思います。すでに5150億トンが排出されており、年間の排出量は約100億トンで、この値は増加を続けています。温室効果ガスの排出を制限しようとする国際交渉は依然継続中であり、さまざまな慣性があるため、温室効果ガスの排出が減り始めるには相当の時間がかかるでしょう。
 悲観的な見解ですが、工業化以降の地球平均気温上昇が3℃から4℃になることは避けられないと考えて、適応策などの対策を立てておくべきでしょう。しかし、先にも触れたように、「深刻で広範にわたる不可逆的な世界規模の影響に至るリスク」が高いことに留意する必要があります。
 地球平均の平均気温は、相対的に熱容量が大きく気温上昇の鈍い海上と、昇温の大きい陸上を平均した値だということに注意しましょう。明らかに、日本の気温上昇は地球平均よりも大きくなります。また北極などの高緯度では、さらに気温上昇は増幅されることもわかっています。
 今私たちのなすべきことは、地球平均の気温上昇が2℃、3℃、4℃のときに、地球や地域社会にいったい何が起こるのか、経済的評価を含めてさまざまな分野で定量的に明らかにしておくことでしょう。それらの影響に私たちは適応できるのか、早急に評価すべきです。
 温室効果ガス排出の主な原因である石炭の使用量を抑えることは、大きな大気汚染を減らすメリットもあります。世界平均で4℃といった人類史上にない昇温した世界に生きるよりは、当面は経済的に苦しくとも温室効果ガス排出量を大幅に削減する方が、結局は得をするのではないでしょうか。そのための定量的な判断材料を、IPCCは提示したといえます。(p203-4)