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ヘンリー四世 第一部/ウィリアム・シェイクスピア

ヘンリー四世 第1部

ヘンリー四世 第1部

 従兄弟のリチャード二世から王位を奪ったヘンリー四世であったが、彼の成功に最も寄与した一族が謀反を起こして、再び内戦が始まる。第一部はホットスパー(熱い拍車)と綽名されたヘンリー・パーシーの死まで。
 50ページほど読んで、なんだか話が飛躍しているようだと感じてよく見たら、間違って第二部を先に読んでいた。第二部は、ホットスパーの死が父のノーサンバランド伯に伝えられるところから始まる。ノーサンバランドとヨーク大司教の軍、マーチ伯(ホットスパーの義兄弟で、リチャード二世は彼を後継者として指名していたと言われる)とウェールズのグレンダワーの軍とが、これから王との決戦に望むことになるのだろう。


 歴史劇ではあるが、政治と戦争とに終始する物語ではない。王子(後のヘンリー五世)とつるんで悪事を働き、暴食鯨飲する無頼漢フォールスタッフが、かつてはこの劇の主人公と考えられていた。
 エリザベス女王の要請を受けて(と伝えられる)『ウィンザーの陽気な女房たち』に再び登場することになった、あのフォールスタッフである。
 彼の創造によって、歴史劇と喜劇が奇妙に融合した。名誉のために戦死した貴族の死体の側で、直ぐさま名誉が相対化される。

フォールスタッフ ロンドンじゃあ飲み逃げって手で勘定をのがれることもできたが、ここじゃあそうはいかん、鉄砲の弾丸には人間と違って感情がないからな、いきなりいのちで勘定を払わされる。待て! だれだ、おまえは? サー・ウォルター・ブラントじゃないか、これが名誉ってもんだ!(第5幕第3場)