本の覚書

本と語学のはなし

ウィンザーの陽気な女房たち/ウィリアム・シェイクスピア

 間の抜けた悪役フォールスタッフは、『ヘンリー四世』にも出てくる騎士である。子分のバードルフとピストルもそうだし、ニムは『ヘンリー五世』に出てくる。
 クィックリーという夫人は、『ウィンザーの陽気な女房たち』では医者の召使い、『ヘンリー四世』では居酒屋のおかみ、『ヘンリー五世』ではピストルの妻となって登場する。同一人物とするべきかどうか分からないが、『ウィンザーの陽気な女房たち』のピストルもクィックリーを狙ってこう言っている、「あのあばずれは他人様の恋をとりもつ屋形船、/それならこちらも帆をあげて、追撃開始だ、砲撃だ、/みごとあの船を乗っとるぞ、さもなきゃ撃沈あるのみだ!」(2幕2場)。劇中でその結果は明かされないということは、この劇の外にあるものを示唆しているのかもしれない。


 『ヘンリー四世』を観たエリザベス女王が、フォールスタッフが恋をしているところをみてみたいと注文したために、シェイクスピアはわずか10日程度で『ウィンザーの陽気な女房たち』書き上げた、との証言が残っている。
 真偽の程は分からない。しかし、他の状況証拠を援用しつつも、この伝説を根拠として創作年代を決定する人も多いようだ。
 女王を喜ばせるためだけに書いたと思わせる説得力は確かにある。