本の覚書

本と語学のはなし

パンタグリュエル ガルガンチュアとパンタグリュエル2/ラブレー

 パンタグリュエルはガルガンチュアの息子であり、物語の時系列で見れば二番目の書物であるが、書かれたのは『パンタグリュエル』が最初である。作者不詳の『ガルガンチュア大年代記』に触発されたラブレーは、アーサー王に仕えたこの巨人にこれまた桁外れな息子をでっちあげ、元の物語よりも遙かに荒唐無稽にして壮大な意味の隠されているらしい、不可思議の長編を編み出したのである。
 嬉しいことに、この巻には『ガルガンチュア大年代記』の訳も収められている。この書の出版にラブレーが関与したとする説もあるようだが、彼自身の著作とは認められていない。飽くまでも産婆役としての特権的地位を考慮して、収録したものらしい。


 首を切られて死んだエピステモンが蘇生した後、冥界の様子を語る場面がある。この世で栄華を誇った者が成り下がり、不遇を託った者が成り上がっているのだという。前者のグループには皇帝や大王に加え、数々の教皇も含まれる。

 ジャン・ルメール先生にも会いましたが、教皇のふりをしておられ、現世では国王や教皇だった方々に、あわれにも、足に接吻をさせておりました。そして、ものすごく偉そうな顔で、彼らに祝福を授け、こう述べておりました。
〈ほらほら悪党どもよ、贖宥を受けとるがいい。ほら、そんなもの安く売っとるのじゃからな。パンとスープの罰を赦してしんぜよう。もう金輪際、役立たずではなくてもいいのだぞ。〉(p.348-9)

 ジャン・ルメールは中世末の「大押韻派」の大作家、ユマニスト、年代記作者で、教皇ユリウス二世を批判する論陣を張っていたそうである。
 この後、先生は二人の元道化の枢機卿にに命じて、免罪勅書を発行してあげる。ただし、「腰のあたりに、杭を一発ずつぶちこんでからですよ」との条件を付けてのことである。