本の覚書

本と語学のはなし

オースティン『レイディ・スーザン』 書簡体小説の悪女をめぐって/惣谷美智子訳著

 ラクロの『危険な関係』を思わせるような書簡体小説である。主人公は悪女。長編しか知らない人には、とてもジェイン・オースティンの作品とは思えないだろう。
 不都合な作品に違いない。初めて世に出たのは死後50年以上経ってから。甥のオースティン=リーが書いた『ジェイン・オースティンの思い出』第2版の付録としてである。叔母を美化したい彼にとっては、不承不承の決断であったようだ。
 しかし、『レイディ・スーザン』を通して見れば、長編の中にも異質のジェインは至る所に顔をのぞかせる。『マンスフィールド・パーク』だって、ひょっとしたら善男善女のハッピーエンドを書きたかったのではないかもしれない。
 この作品によってこそ、今まで見ても見えていなかったものが、新たな可能性として解放されるのである。


 未読の邦訳は書簡集を残すだけになったが、その前に『高慢と偏見』を再読しておく。
 アマゾン・プライムでは今、ドラマの『高慢と偏見』(ダーシー役にコリン・ファース)が無料で見られる。だが、原作を英語でちびちび読んだのは随分昔の話なので、細かいところはほとんど忘れている。ドラマの予習として読むのである。