本の覚書

本と語学のはなし

【フランス語】名誉を軽蔑したことを自分の名誉としようとする【エセー1.41】

モンテーニュ『エセー』第1巻第41章「みずからの名声は人に分配しないこと」を読了する。 名声や名誉ばかりは、哲学者にだって完全に断ち切ることは難しい欲望である。 だが、中には自分の名誉を犠牲にした例もないわけではない。後半はそういう話がいくつも…

【フランス語】文体をわざとくずしておきながら【エセー1.40/39】

モンテーニュ『エセー』第1巻第40章(第39章)「キケロに関する考察」を読了する。 モンテーニュはキケロの完成された修辞に重きを置かない。重要なのは内容である。そこから、自身の文体について語り始める。なかなか興味深い自己分析である。 なお、1595年…

【フランス語】巣穴の入口できちんと足跡を消す【エセー1.39/38】

モンテーニュ『エセー』第1巻第39章(第38章)「孤独について」を読了する。 隠遁のすすめである。キケロや小プリニウスのごとく、後世に名を残す事業のために余暇を必要としたのとは一線を画す。セネカやエピクロスのように、ただ自分の内に引きこもりなさ…

【振り返り】2024年1月

【読書・語学】 ▼モンテーニュ『エセー』第1巻第31章(第30章)「神の命令に口出しして判断するのは、慎重にしなくてはいけない」207頁から第39章(第38章)「孤独について」244頁まで。 ▼セネカ『幸福な生について』17.2から28.1まで。読了。『生の短さにつ…

Newton 2024年3月号【バイアス大図鑑】

Newton(ニュートン) 2024年3月号 [雑誌]ニュートンプレスAmazon 第1特集は「バイアス大図鑑」。 人間の心にはある種の傾向がある。考え方や判断に、必ずしも合理的ではないのに、多くの人に共通する癖のようなものがあるのだ。 たとえば、多くても少なくても…

【ラテン語】生への準備の段階で生に見捨てられ【生の短さ】

今日からセネカの『生の短さについて』を始める。参照する翻訳は、引き続き岩波文庫の大西英文のもの。 ラテン語の方も最近はフランスの辞典を使っている。プルタルコスほどではないが、セネカにおいても、時々コンパクトな字引には見当たらない単語が使われ…

【ラテン語】たとえ彼らが墜落しても【幸福な生】

セネカ『幸福な生について』を読了する。 セネカが莫大な資産を有していたことに、言行不一致との批判もあったようで、この書にはそれに対する自己弁護と思われるような文章も存在する。 あってもなくても構わないが、あるに越したことはないものが存在する…

プルタルコス英雄伝(中)/プルタルコス

プルタルコス英雄伝〈中〉 (ちくま文庫)作者:プルタルコス筑摩書房Amazon 中巻に収められているのは、アレクサンドロス、アギスとクレオメネス、ロムルス(付比較)、カトー(付比較)、ティベリウス・グラックスとガイウス・グラックス(付比較)、スルラ。…

【フランス語】ブラン・デュ・ファ【エセー1.38/37】

モンテーニュ『エセー』第1巻第38章(第37章)「われわれは、同じことで泣いたり笑ったりする」を読了する。 比較的短い章が多かったので、今月はたくさんの章を読むことができた。たぶん次の第39章(第38章)を終えるのは来月に入ってからになる。 それにし…

【ギリシア語】羨みの対象となるものの大半が【敵から利益】

プルタルコス『いかにして敵から利益を得るか』を読了する。 Moralia, II: How to Profit by One's Enemies. On Having Many Friends. Chance. Virtue and Vice. Letter of Condolence to Apollonius. Advice About Keeping Well. Advice to Bride and Groom…

【フランス語】差異のほうをすんなり受けいれる【エセー1.37/36】

モンテーニュ『エセー』第1巻第37章(第36章)「小カトーについて」を読了する。 小カトーはストア派の英雄であって、セネカもほとんど理想の賢人として描いている。カエサルと対立して、最後は北アフリカのウティカで壮絶な自殺をした。ウティカのカトーと…

エセー1/モンテーニュ

エセー〈1〉白水社Amazon モンテーニュに初めて触れたは学生時代のことだった。岩波文庫の原二郎訳『エセー』を一気呵成に読んだ記憶がある。 次は2020年の終り頃から2022年7月まで、2年近くかけて関根秀雄訳の全集を読んだ。『旅日記』や書簡なども含まれて…

【フランス語】黒か白しか着ない【エセー1.36/35】

モンテーニュ『エセー』第1巻第36章(第35章)「服の着用という習慣について」を読了する。 Essais, Les作者:Montaigne, Michel DeImprint unknownAmazonエセー〈2〉作者:ミシェル・ド モンテーニュ白水社Amazon Et puis que nous sommes sur le froid, et F…

【フランス語】どこもかしこも堕落しているわけではなくて【エセー1.35/34】

モンテーニュ『エセー』第1巻第35章(第34章)「われわれの行政の欠点について」を読了する。 Essais, Les作者:Montaigne, Michel DeImprint unknownAmazonエセー〈2〉作者:ミシェル・ド モンテーニュ白水社Amazon Le monde n'est pas si generalement corro…

【フランス語】運命はわれわれよりも思慮深い【エセー1.34/33】

モンテーニュ『エセー』第1巻第34章(第33章)「運命はしばしば、理性とともに歩む」を読了する。 運命は変転極まりなく、その行き着く先は人知で予測できるものではないが、ときには人間の思慮よりももっと思慮深くことをなすことがある。それをプルタルコ…

ローマの哲人 セネカの言葉/中野孝次

ローマの哲人 セネカの言葉 (講談社学術文庫)作者:中野 孝次講談社Amazon 中野孝次はセネカの研究者ではない。西洋古典学の専門家ですらない。もともと徳に関心があったから、あるとき岩波文庫の茂手木元蔵訳を手にしたのである。 それが面白くて、同じく茂…

【フランス語】きみがもつれさせた結び目を【エセー1.33/32】

モンテーニュ『エセー』第1巻第33章(第32章)「命を犠牲にして、快楽から逃れること」を読了する。 Essais, Les作者:Montaigne, Michel DeImprint unknownAmazonエセー〈2〉作者:ミシェル・ド モンテーニュ白水社Amazon Je suis d'adviz (dict-il) que tu q…

【フランス語】こちらに送り届けようと思うだけの光で【エセー1.32/31】

モンテーニュ『エセー』第1巻第32章(第31章)「神の命令に口出しして判断するのは、慎重にしなくてはいけない」を読了する。 彼は形而上のことには立ち入らない。キリスト教徒であれば、幸も不幸も神慮と考え、人知を越えることは神に感謝しつつ受け取れば…

【フランス語】われわれは、あらゆる野蛮さにおいて彼らを凌駕している【エセー1.31/30】

モンテーニュ『エセー』第1巻第31章(第30章)「人食い人種について」を読了する。 Essais, Les作者:Montaigne, Michel DeImprint unknownAmazonエセー〈2〉作者:ミシェル・ド モンテーニュ白水社Amazon Nous les pouvons donq bien appeller barbares, eu e…

プルタルコス英雄伝(上)/プルタルコス

プルタルコス英雄伝〈上〉 (ちくま学芸文庫)作者:プルタルコス筑摩書房Amazon プルタルコスの現存する『英雄伝』の内、ちくま文庫の3巻本に収められたのは、半分くらいだそうだ。 『対比列伝』とも言われるとおり、本来はギリシアとローマの歴史的人物(必ず…

【新年の抱負】2024年

エセー〈1〉白水社Amazon モンテーニュ『エセー』のフランス語原典を中心に。 和書で必ず読みたいのは、宮下志朗訳『エセー』全7巻、堀田善衛『ミシェル 城館の人』3部作。 ギリシア語はプルタルコス、ラテン語はセネカ。翻訳を入手して、早急に全体を把握し…

【ラテン語】自分でも分からないほど【幸福な生】

Moral Essays, Volume II: De Consolatione ad Marciam. De Vita Beata. De Otio. De Tranquillitate Animi. De Brevitate Vitae. De Consolatione ad Polybium. De Consolatione ad Helviam (Loeb Classical Library)作者:SenecaHarvard University PressAm…

【振り返り】2023年

【仕事】 ▼2月に10年勤めた夜勤の仕事を辞める。 ▼3月から新しい仕事を始めたが、これまで経験した中でも最低の職場であった。早くも5月に辞めてしまった。 ▼再就職しないまま年を越す。失業保険は全額支給される見込みである。 【読書・語学】 ▼失業とひき…

【振り返り】2023年12月

【読書・語学】 ▼ワードとエクセルのマニュアルを読む。これで実用書シリーズはおしまい。 ▼一旦休止した後、月末になって物理の参考書を再開。数学と物理をどうするかは、また検討が必要。 ▼モンテーニュ、プルタルコス、セネカの原典講読は順調。もう少し…

パソコン仕事が10倍速くなる80の方法/田中拓也

たった1秒の最強スキル パソコン仕事が10倍速くなる80の方法作者:田中 拓也SBクリエイティブAmazon これが今年最後の読了本となるであろう。最後としてはちょっと味気ないが、家事やパソコン関連の本を多く読んできた今年の一面を象徴しているようでもある。…

Newton 2024年2月号【科学の名著】

Newton(ニュートン) 2024年2月号 [雑誌]ニュートンプレスAmazon 第1特集では、科学の名著を62冊紹介する。必ずしも科学史を動かした歴史的名著のことではなく(そういうものも含まれるが)、科学への入門として格好の読み物が多く選出されているようだ。 私…

時代と流れで覚える! 世界史B用語/相田知史・小林勇祐

時代と流れで覚える! 世界史B用語作者:相田 知史,小林 勇祐文英堂Amazon 失業してからの日課。朝一番にパソコンを開き、英仏のニュースを漫然と聞き流す。だが、パソコンはそう直ぐには起動してくれない。準備ができるまで歴史の参考書を読む。 見開き1項目…

今すぐ使えるかんたん Excel 完全ガイドブック 困った解決&便利技/AYURA

今すぐ使えるかんたん Excel完全ガイドブック 困った解決&便利技 [Office 2021/2019/2016/Microsoft 365対応版]作者:AYURA技術評論社Amazon もうずっと仕事でパソコンを使うことはなかった。現在、エクセルは自分のお金を管理するのに用いるくらいである…

フランス語史/山田秀男

フランス語史作者:山田 秀男駿河台出版社Amazon フランス語史の概説的な簡単な入門書。各時代の細部に至るまで詳説してくれるものではない。 古い時代のフランス語も、日本の古典よりは読みやすいのかもしれない。モンテーニュが登場する16世紀ともなれば、…

【フランス語】まるで手が穢れているかのように【エセー1.30/29】

モンテーニュ『エセー』第1巻第30章(第29章)「節度について」を読了する。 徳にも節度が必要なのだというところから説き起こし、夫婦間の快楽には節度が必要であるとか、人間の英知は快楽を減らすために一生懸命になっている、「もしもわたしが、なにかの…