本の覚書

本と語学のはなし

読者よ、これは嘘偽りのない真正直な書物です【フランス語】

 ホームズを研究しようとすると、案外お金がかかる。少し立ち止まって、冷静に考えてみる必要があるのではないか。
 購入済みの全集に取りかかることにした。
 東京図書の全集はベアリング-グールドが詳しい解説と注を付けたもので、事件の発生順に時系列で配列されている。*1最初の事件は「グロリア・スコット号」(『思い出』所収。この全集では、なぜかどの短編集に収められている物語なのか示されない。周知の事実であるからか?)。1巻から続いたシャーロキアンの序文が2巻の半ばにまで及び、ようやく95ページから本文が始まるのである。
 ホームズを読んだことがないのなら、あるいは長らく読んでいないのなら、序文を飛ばして本文から読むようにと強く勧められている。しかし、2巻の途中から始めるのがなんとなく気持ち悪くて、序文と本文とを同時並行で進めている。


Oeuvres complètes de Montaigne

Oeuvres complètes de Montaigne

  • メディア: ハードカバー
 仮に英語の専門がジェイン・オースティンシャーロック・ホームズになったとしよう(ブラウン神父は除いておく)。
 そうすると、フランス語の分量だけ少なすぎるのではないかと気になってくる。モンテーニュを追加して悪い訳がどこにあるだろうか。
 モンテーニュを始めるのに1円たりとも出費する必要はない。フランス語でも英語でも日本語でも、全著作集と『エセー』のみのものと、それぞれ1種類ずつ持っている。参考書の類いは全部売ってしまった。だが、モンテーニュニーチェ同様、専ら本人に語らしめるべきで、研究書を漁る必要はない。
 関根秀雄訳の全集には、訳者によるはしがきの冒頭にフローベールの書簡(ルロワイエ・シャントピー嬢宛て、1857年6月、クロワッセにて)が引用されている。

どんな本を読んだらよいかとおっしゃるのですか? モンテーニュをお読みなさい。ゆっくりと。そして腰をすえて! 彼はあなたの心を鎮めてくれます。彼はエゴイストだなどという、人の言葉など、お気になさることはありませんよ。あなたはきっと彼が好きにおなりになります。だが子供みたいに、つまりただ面白がって、読むのではいけません。また野心家のように、学者になろうなどと思って、読んではいけません。そうではなしに、よく生きるためにお読みなさい。・・・・・・先ず第一に私はモンテーニュをお奨めします。それを端から端までお読みなさい。終わったらまたもういっぺんお読みなさい。


 16世紀のフランス語など特別な訓練なしに読めるものだろうか。
 そう思うかもしれないが、案外読めてしまうものなのである。「読者へ」と書かれた『エセー』序文の冒頭を引用してみる。

C'est icy un livre de bonne foy, lecteur. Il t'advertit dès l'entrée, que je ne m'y suis proposé aucune fin, que domestique et privée. Je n'y ay eu nulle consideration de ton service, ny de ma gloire. Mes forces ne sont pas capables d'un tel dessein.

読者よ、これは嘘偽りのない真正直な書物です。何よりも先にまず申し上げておきますが、わたしはこの本を書くに当たって、自分のことわたしのことよりほかには何も目ざしはしませんでした。あなたのお役にたとうとも、自分のほまれを輝かそうとも、そんなことは少しも考えはしませんでした。そんなことはとてもわたしの力におよばないことです。

 ちょっとした綴りの違いを除けば、ほとんど現代語としても通用しそうな文章である。


 だが、こういうことをやっている内にまた手を広げすぎて何も出来なくなってしまうのである。
 今も既に、『エセー』を読むなら『徒然草』だって常に座右に置くべきではないかという誘惑に襲われ始めている。


【家庭菜園】
 大雨でマリーゴールドがみんな倒れてしまった。大袈裟なほどに土を盛って立て直したが、翌日の雨でまた一部倒れる。株が大きくなって、自重を支えきれなくなったようだ。
 剪定してすっきりさせた。それでも雨の度に倒れるので、倒れ癖のついたものは諦めて緑肥とすることにした。
 繁茂しすぎる前に、バランスよく育つよう、剪定や摘芯をするべきものらしい。


 中玉トマトは新しい実が成らなくなった。収穫すれば数が減る。減るからそこに栄養が集中していく道理だろうか、残りの実が一気に熟した。
 終わるときはあっという間である。


 ミニトマトは完全に終了。
 ゴーヤーの生命力を侮っていた。病気にならなければもう少し長く収穫できただろう。


 6月30日のつるなしインゲンの跡にホウレンソウの種をまいた。発芽し始めている。
 虫対策は何もしていない。どうなることか。


 7月17日のつるなしインゲンはほとんど実が成らないまま終了。
 株と株の間には既にダイコンが育っている。


 8月後半にまいたダイコンを一斉に間引いて、1本立ちにする。
 ダイコンに比べると、同時期にまいたカブは育ちが悪い気がする。


 7月17日の秋キュウリの初収穫。

*1:後にちくま文庫でも出版された。いずれも絶版。古本では東京図書版の方が安く買えるが、21冊もあるので煩わしいかもしれない。