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力は弱さにおいて完全になる【ギリシア語】

新約聖書〈4〉パウロ書簡

新約聖書〈4〉パウロ書簡

 ちょっと長いが、コリント人への第二の手紙12章6節から10節。

6 Ἐὰν γὰρ θελήσω καυχήσασθαι, οὐκ ἔσομαι ἄφρων, ἀλήθειαν γὰρ ἐρῶ· φείδομαι δέ, μή τις εἰς ἐμὲ λογίσηται ὑπὲρ ὃ βλέπει με ἢ ἀκούει [τι] ἐξ ἐμοῦ 7 καὶ τῇ ὑπερβολῇ τῶν ἀποκαλύψεων. διὸ ἵνα μὴ ὑπεραίρωμαι, ἐδόθη μοι σκόλοψ τῇ σαρκί, ἄγγελος σατανᾶ, ἵνα με κολαφίζῃ, ἵνα μὴ ὑπεραίρωμαι. 8 ὑπὲρ τούτου τρὶς τὸν κύριον παρεκάλεσα ἵνα ἀποστῇ ἀπ’ ἐμοῦ. 9 καὶ εἴρηκέν μοι· ἀρκεῖ σοι ἡ χάρις μου, ἡ γὰρ δύναμις ἐν ἀσθενείᾳ τελεῖται.  Ἥδιστα οὖν μᾶλλον καυχήσομαι ἐν ταῖς ἀσθενείαις μου, ἵνα ἐπισκηνώσῃ ἐπ’ ἐμὲ ἡ δύναμις τοῦ Χριστοῦ. 10 διὸ εὐδοκῶ ἐν ἀσθενείαις, ἐν ὕβρεσιν, ἐν ἀνάγκαις, ἐν διωγμοῖς καὶ στενοχωρίαις, ὑπὲρ Χριστοῦ· ὅταν γὰρ ἀσθενῶ, τότε δυνατός εἰμι.

 おそらくこの個所を聖書の中で最も愛しているであろう青野太潮の訳。

6 実際、もしも私が誇ることを欲したとしても、私は愚か者にはならないであろう。なぜならば、私は真実を語るであろうからである。しかし、私は〔誇ることを〕断念する。それは、人が私を見たり、あるいは[何か]私から聞いたりすること以上に、私を買いかぶることのないためである。 7 それも〔私の受けた〕もろもろの啓示の卓越ゆえに〔、である〕。そのために、私が高慢にならないようにと、私の肉体には刺が与えられた。それは、私が高慢にならないようにと、私を〔拳で〕打つための、サタンの使いである。 8 この彼について私は、彼が私から離れ去るようにと、三度主に懇願した。 9 すると主は、私に言われたのである。「私の恵みはあなたにとって十分である。なぜならば、力は弱さにおいて完全になるのだからである」。
そこで私は、むしろ大いに喜んで自分のもろもろの弱さを誇ることにしよう。それは、キリストの力が私の上に宿るためである。 10 それだから私は、もろもろの弱さと、侮辱と、危機と、迫害と、そして行き詰まりとを、キリストのために喜ぶ。なぜならば、私が弱い時、その時にこそ私は力ある者なのだからである。


 弱さの内に力は完全になる。それはイエスの十字架において端的に示された。イエスは自分が何故死ななくてはならないのかも理解できないまま、絶望の内に呪われて死んだ。ひたすら惨めな無意味な死である。贖罪の栄光を帰すべき英雄的な死などでは断じてない。
 青野の言う逆説とはこのことである。
 これが青野の信仰であり、パウロの信仰であるとも確信している。

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