本の覚書

本と語学のはなし

さあ、父にぶどう酒を飲ませ【ヘブライ語】

Biblia Hebraica Stuttgartensia

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 創世記19章31-32節。

וַתֹּ֧אמֶר הַבְּכִירָ֛ה אֶל־הַצְּעִירָ֖ה אָבִ֣ינוּ זָקֵ֑ן וְאִ֨ישׁ אֵ֤ין בָּאָ֨רֶץ֙ לָבֹ֣וא עָלֵ֔ינוּ כְּדֶ֖רֶךְ כָּל־הָאָֽרֶץ׃ לְכָ֨ה נַשְׁקֶ֧ה אֶת־אָבִ֛ינוּ יַ֖יִן וְנִשְׁכְּבָ֣ה עִמֹּ֑ו וּנְחַיֶּ֥ה מֵאָבִ֖ינוּ זָֽרַע׃

 新共同訳。

姉は妹に言った。「父も年老いてきました。この辺りには、世のしきたりに従って、わたしたちのところへ来てくれる男の人はいません。さあ、父にぶどう酒を飲ませ、床を共にし、父から子種を受けましょう。」

 聖書は道徳の本ではない。
 マタイ福音書の冒頭にイエス系図がある。その中に、何人かの女性の名前が挙げられている。舅のユダによって子を得たタマル、カナンの娼婦ラハブ、モアブ人のルツ、ウリヤの妻バト・シェバ(彼女がダビデによって身ごもったとき、ダビデはウリヤを最も危険な戦地に送り込み戦死させた)、そしてイエスの母マリアである。
 創世記のこの箇所に描かれているのは、ソドム滅亡後、洞穴に住んだロト(アブラハムの甥)とその二人の娘の話である。子孫を残すためのやむを得ぬ手段とは言え、それは明瞭な近親相姦であった。姉はその子をモアブと名付け、妹はその子をベン・アミと名付けた。前者はモアブ人の祖であり、後者はアンモン人の祖であると説明されている。
 モアブ人とアンモン人はイスラエル人の親戚であり、同時に仇敵でもある。しかし、その子孫の中の一人の女性ルツの血が、やがてダビデへと繋がっていき、イエスとも関係づけられるのである。
 道徳の本ではない。だが、罪と汚れと異邦とを呑み込む聖性のようなものが、聖書には語られているのかも知れない。