本の覚書

本と語学のはなし

エンキリディオン 小教理問答/マルティン・ルター

 宗教改革500年記念として訳されたルターの『エンキリディオン』。これまで『小教理問答』だけで出版されたことはあったが、『エンキリディオン』全体が一冊の本になったのはこれが初めてであるという。


 「小教理問答」の主たる部分は、十戒使徒信条、主の祈りをめぐる質問と回答である。キリスト教の根幹はこの三つに要約されるということだろう。
 更に、洗礼や懺悔や聖餐についても書かれている。洗礼と聖餐がプロテスタントにおいてもサクラメントとして認められているのは知っていたが、ルターは懺悔もそのようなものとして考えていたようだ。これは新しい発見である。

懺悔とはなんですか。


答え 懺悔には二つの部分があるのだ。ひとつは人が罪を告白することで、もうひとつは人が、懺悔を聴いてくださる方から赦免、すなわち赦しを神ご自身からのものとして受け取り、しかもこれを疑わずに、罪はこれによって天の父の前で赦されたのだと堅く信じるのだよ。(p.46-47)

 文体に疑問を持つ人もいるかもしれないが、これは子の質問に対する父の信仰告白としての答えであるという、徳善義和の説を反映したものである。


 「小教理問答」に続いて、「朝の祈り、夕の祈り、食事の感謝」「いくつかの聖句による家訓」「結婚式文」「(嬰児)洗礼式文」が載せられている。
 結婚はこの世の出来事であって、サクラメントではない。教会の口出しすることではない。しかし、婚姻する者からの依頼があれば、式を司ることを断ることはない。そういうスタンスであるようだ。
 一方、幼児洗礼ははっきりと認めている。プロテスタントの中でも幼児洗礼を行うか否かは意見の分かれるところだが、ルター派は今でも肯定的であるようだ。