本の覚書

本と語学のはなし

ユダヤ戦記2/フラウィウス・ヨセフス

 著者のヨセフスはガリラヤを担当する指揮官であったが、ウェスパシアヌス率いるローマ軍の前に敗退し、洞穴に逃げ込む。ヨセフスの説得も空しく、一緒に逃げた仲間たちの総意は、そこで自決をすることに固まった。

 ヨセポス〔ヨセフスのギリシャ語形。歴史家として自分のことをも三人称で語る〕はこの窮地においても冷静さを欠くことがなかった。彼は守護者である神を信頼して身の安全を傍らに投げ捨てると、次のように言った。


「死ぬことに決めたのであれば、さあ、互いに殺戮をくじに委ねよう。最初にくじを引く者は次に引く者の手で倒れる。こうしてテュケー〔擬人化された運命の女神〕が全員の間を経巡り、各自が自身の右手の刃の上に倒れることがないようにしよう。なぜなら、他の者たちが命を落としてしまったのに、ある者が思い直して生きながらえることなどあってはならないからだ。」


 ヨセポスはこのように言って信じさせ、一緒にくじを引いて人びとを味方につけた。くじを最初に引いた者は次の者に殺戮を委ねる心構えをした。彼らは指揮官もすぐに死ぬものと確信した。ヨセポスと一緒に死ねるのは生きながらえるにまさる甘美なことと思えたのである。(p.91, Ⅲ387-90)

 ところが彼は残り二人となったところで(本人は神の摂理かと言っているけど、どうなのだろう?)、もう一人を説得してローマ軍に投降し、ウェスパシアヌスは将来ローマ皇帝になると予言して(遠からず的中した)、生きながらえたのである。


 エルサレムウェスパシアヌスの息子ティトゥスの前に風前の灯である。しかし、ユダヤ人にとって最大の敵は、ローマ人であるよりむしろ同胞ユダヤ人であった。ほとんど盗賊のような連中が内部で抗争を繰り返しながら、一般市民は彼らの剣と飢餓の前にバタバタと倒れていくのである。