本の覚書

本と語学のはなし

聖書外典偽典3 旧約偽典Ⅰ/日本聖書学研究所編

 アリステアスの手紙、第四マカベア書、シビュラの託宣、スラヴ語エノク書、ピルケ・アボスを収録する。


 「アリステアスの手紙」は七十人訳聖書の成立に関する伝説的なお話。


 「第四マカベア書」は宗教的信念を曲げずに勇敢に殉死した兄弟たちの話。実際に演説されたものかもしれないという。第一と第二は外典であるので、シリーズ第一巻に収められている(新共同訳の旧約聖書続編つきでも読める)。第三は別巻補遺Ⅰに収められている。
 外典と偽典について簡単に書いておくと、ユダヤ教正典を決定する際に、七十人訳に含まれているがヘブライ語正典には入れられなかったものを外典と言い(ただし第三と第四マカベア書は偽典に含む)、偽典とはその他の文書で、旧約に出て来る人名を用い、旧約時代に書かれたかのような体裁のものを言う。
 なお、新約の場合には外典しかないのだが、こちらは正典と対抗しようとしたものとして正統教会から排除された文書を指す。正統的な内容を持つ使徒教父文書は、したがって新約外典の内には含まないのである。


 「シビュラの託宣」には新約的な内容を持つものもあり、その部分はシリーズ第六巻の新約外典Ⅰに収められている。


 「スラヴ語エノク書」。わざわざスラヴ語と付けてあるのは、他に「エチオピアエノク書」というものもあるから。両者はだいぶ異なるらしく、後者はシリーズ第四巻に収められている。
 興味深いのはエノクの曾孫ニルの話。彼は祭司として立てられて以降妻ソフォニムと同衾したことはなかったが、その老年に至って彼女が身ごもった。ニルがソフォニムを叱責すると、彼女は死んだ。

 彼ら〔ニルとその兄ノア〕が彼女の墓へと出て行った時、ソフォニムの遺体から子供が出て来て、寝床にすわった。(中略)ノアとニルはその子供を眺めて言った。「わが兄弟よ、これは主からのものだ」。子供の体には祭司の印があり、姿は栄えあるものだった。そこでノアはニルに言った。「弟よ、これは主がわたしたちののちに聖なる家を新たにされようとするのだ」。そこでニルとノアは急いで行き、子供を洗い、祭司の服を着せた。そして子供に祝福のパンを与えると、彼はそれを食べた。彼らは子供にメルキセデクの名をつけた。(23章)


 「ピルケ・アボス」はミシュナの一書である。

関連記事