本の覚書

本と語学のはなし

ユダヤ教/M. モリスン、S. F. ブラウン

 ユダヤ教聖典キリスト教では旧約聖書と呼んでいるために、ユダヤ教というのは新しい契約によって既に役目を終えた宗教であるかのような印象があるかもしれない。しかし、ユダヤ戦争で第二神殿が破壊されて、その教えまでも無に帰してしまったわけではない。
 世界各地に散らされ迫害を受け、挙句にホロコースト(元来はレビ記などに規定される焼き尽くす献げ物、燔祭のことである)で大打撃を蒙りながらも、ユダヤ教は現代に至るまで命脈を保ち、人類活動のあらゆる分野に得難い人材を輩出して来たのである。
 この本では、その長く広範囲にわたる歴史を簡潔にまとめてくれている。
 訳者の秦剛平はヨセフスや七十人訳聖書の訳者でもある。巻末には日本語で読める文献案内がついていて、これがなかなか充実している。

ユダヤ教の文書

 ユダヤ教聖典はいわゆる旧約聖書と同じものであるが、並び方と分類が違う。ユダヤ教では最初のモーセ五書をトーラー(律法)と呼ぶ。これが聖書中の最も大事な部分である。残りは預言者と諸書。預言者にはイザヤ書などだけではなく、ヨシュア記などの我々が歴史書と考えているものも含む。諸書には詩編や知恵文学だけでなく、歴代誌やダニエル書まで含まれる。
 イエスが「わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない」(マタイ5 :17)と言うとき、律法と預言者というのは、今日の形の聖書ではないにしても、文書としても伝わるユダヤ教の核心部分のことであった。


 200年頃、口伝にもとづく法の解釈集成として『ミシュナー』が編纂される。この註解書がゲマラである。
 400年頃に『パレスチナ・タルムード』が、500年頃に『バビロニア・タルムード』が編纂される。『タルムード』はトーラーと『ミシュナー』とゲマラから構成されており、口伝によるユダヤ法規を集大成した資料集である。
 その他に、説教や聖書解釈の集成として『ミドラシ』がある。300年から600年頃の間に編纂された。


 ユダヤ教文書についてはもう少し突っ込んで学んでみたい。