本の覚書

本と語学のはなし

はじめて読む人のための聖書ガイド/日本聖書協会編

 新約旧約各書の特徴、執筆目的、背景、構成を簡単に解説する。
 『聖書 スタディ版 新共同訳』から抜粋し、改訂を施したものであるから、あまり思い切ったことは言えない感じが伝わってくる。
 例えば一般にパウロ自身の手紙とは考えられていない偽名書簡の作者について、ことごとく「弟子の一人がこの手紙を書いたと考える学者もいる」というごく控えめな記述に留めている。その後で、必ず「弟子が師の名で書き、師を称えるのは、古代世界ではめずらしいことではなかった」と書き添えているところを見ると(一概に師を称える目的とのみ言い切れるかは分からないが)、執筆陣はいわゆる偽名書簡は確かに偽名書簡であると考えているはずではあるが。
 新共同訳を使う教団や個人が、必ずしもみな批判的文献学的な聖書研究の成果を受け入れているとは限らないのだろう。カトリックの場合、現在は偽名書簡説を退けなくてはいけない義務はないが、フランシスコ会訳聖書の解説を見ても両論併記に終始しているようだし、おおっぴらに偽名書簡説をとることは床しい振る舞いではななさそうである。