テーマは、自然、旅、動物、植物、生活、生死、家族、恋、職、社会。短歌になりやすいもの、なりにくいものはあるだろうけど、切り取り方次第では何でも題材になりうるということだ。
私の場合を考えてみると、自然界のことに対して無知でありすぎる。これからは動植物の名前を覚えること、実作に当たってはその特質をよく調べることが必要だ。それから、家族や恋などはほとんど何も詠むものを持ち合わせていない。これは短歌を作る者にとっては致命的な欠点だろうが、そうは言ってもなんともしようがない。
歌人ごとにまとめたアンソロジーでないから、一般には無名の人の短歌も載っている。たぶんここでしか読まないだろうというものもたくさんあって、それはそれでいいのだろうけど、例えば職のテーマなどは、いろんな職業の人が短歌を詠んでいるという見本のような感じになっていて、本当にそれが「日本の名歌」として誰もが納得しうるような歌であるかどうかは、少し疑問でもある。
鑑賞つきというのは、まだ読みに自信がない私にとってはありがたいものであったけど、ちょっとうるさい気もしないではない。違和感を覚える解釈もあるし、本来の解釈を隠して倫理的に偽装しているとしか思えないところもある。
たとへば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
河野裕子『森のやうに獣のやうに』
この歌には「対等な存在として向き合う男女の姿」があると解説されているが、対等だの不平等だのがここで眼目となりうるのか否か、私には理解できなかった。
ただ、全体としては私の至らない読み(表面的な意味のレベルにしろ、深層の解釈にしろ)を訂正されることの方が多く、大変勉強になった。実作においても、少しはましになった気がする。
これだけ読んだのだから、短歌の目の皆さんの出品作品にも感想を書いてみようかと思ったが、これは難しくてやっぱり手が出せない。
この本に載っている短歌は、比較的新しいものも多いけど、現代短歌の最前線などではなく、これでは短歌の目のアヴァンギャルドな作風に対応できないのである。
そして私自身も、少し古風な短歌観から再スタートしてみようと思っているところである。