サムエル記は王を神聖視しない。後年の狂気に満ちたサウルは哀れである。神は彼を王としたことを悔い、彼に悪霊を送ったという。歴代誌では決して描かれないが、サムエル記はダビデとバト・シェバの不倫も息子アブサロムの叛乱も包み隠さない。
バト・シェバの夫はヘト人ウリヤ。バト・シェバが妊娠したことをダビデに告げると、彼はウリヤを戦地から呼び戻す。しかし、ウリヤは戦場にいる同胞に遠慮して、決して妻と同衾しようとしない。ダビデは彼を戦地に送り返し、その手には、彼を最も危険な最前線に行かせ、そこに取り残すようにとの指示を書いた指揮官宛ての手紙を持たせる。
この時の子は神の怒りに触れて死んだが、バト・シェバは夫の戦死後正式にダビデの妻となり、ソロモンを生んだ。
アブサロムは同腹の妹を強姦した異母兄弟を殺し、ダビデの怒りを買った。後に許されてエルサレムに戻るが、父には重用されず、ついに反旗を翻す。ダビデは一時エルサレムを離れざるを得なくなった。
後の決戦において、ダビデは息子を決して手荒に扱わぬよう指示を出したが、その命令は無視されアブサロムは殺される。「わが息子アブサロム、アブサロムよ。わが息子よ、わが息子よ」。
ダビデの嘆きは、フォークナーの小説のタイトルになった。
旧約聖書の中でも、物語としての面白さは一二を争う。