本の覚書

本と語学のはなし

一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教/内田樹・中田考

ユダヤ人哲学者レヴィナスを師とする内田樹と、イスラム国関連で名前を目にすることも多くなった日本人ムスリム中田考の対談。2人を結びつけるのは、アメリカ型のグローバリズムに対する嫌悪である。
▼しかし、一方は今ある国民国家をなんとかブリコラージュ的にうまく活用していこうという立場であるのに対し、一方は国民国家を廃止してカリフ制を再興しようと目論む立場である。
▼これはイスラム圏と非イスラム圏における戦略の違いとして、必ずしも互いに反目するべきことではないのかもしれない。内田は言っている。

ですから、これからのアメリカの世界戦略は、非イスラーム圏に対しては国民国家を解体する方向で圧力をかける、イスラーム圏に対しては逆に国民国家を強化するというかたちで圧力をかける、そういうダブルスタンダードを使っていくのじゃないかと思っています。(p.142)

▼つまり、アメリカのダブルスタンダードに抗して、内田は非イスラム圏の国民国家を護持し、中田はイスラム圏のクロスボーダー的カリフ制を再興することを目指すのだとすれば、2人の主張の相違はひとまず調停可能である。


ユダヤ教寄りの人と完全にイスラム教の人との対談なので、キリスト教はここではちょっと分が悪い。しかし、他の一神教の視点からキリスト教を見つめ直す機会というのはあまりない。ぜひクリスチャンに読んでほしい本である。
一神教というのはそれぞれに傲岸なものであろうけど、キリスト教も相当にそうなのだということは自覚しておかないといけない。