- 作者:新訳聖書翻訳委員会
- 発売日: 1995/10/27
- メディア: 単行本
▼使徒行伝には、一人称複数の人称代名詞の文章、いわゆる「われら章句」がいくつかある(従来、これがルカが著者であることの証拠とされた)。これは実際にパウロの伝道旅行に同行した者、場合によっては真のルカにまで遡る資料に基づいているのだろうか。しかし、荒井献はこの一人称をヘレニズム期の文学的手法であると考える。
▼現行の聖書の配置では、両者の間にヨハネによる福音書が入っている。そのせいもあり、私も今までルカ文書を一続きの文書として続けて読んだことはなかったのだが、これはやはり並べて読んでみるものである。
▼イエスの声がステファノやペトロやパウロの中にこだましつつ、ガリラヤ湖から地中海へと、ユダヤ人から異邦人へと歴史は展開してゆく。
▼しかし、ルカがパウロを理解していたとは言いがたい。荒井献は「著者がパウロ書簡そのものを知っていた形跡はまったくない」(p.295)と言い切る。実際、手紙のパウロとルカのパウロはかなり傾向が違うし、時にははっきり矛盾している。
▼岩波の共観福音書はすべて佐藤研が訳している。この人の翻訳については田川建三が散々扱き下ろしているから、語学的なことは措いておく。だが、そういうことを抜きにしても、読んでいて非常に疲れる日本語だ。必要ないと思われるところにまでやたら補足を入れるのも、ちょっと感じが悪い。
▼ちなみに、荒井献は「あらいささぐ」、佐藤研は「さとうみがく」と読む。