本の覚書

本と語学のはなし

イエス・キリスト/土井正興

イエス・キリスト (1966年) (三一新書)

イエス・キリスト (1966年) (三一新書)

▼イエスの運動には、ゼーロータイ的側面を持った民衆とバプテスマ的傾向を持った民衆とが参加した。イエスは平等を説き、その間の矛盾を埋めようとしたが果たせず、結局は地上に神の国を実現しようとするゼーロータイ的な反ローマ闘争の首謀者として処刑される。
▼イエスの死後、挫折したメシア願望の故にゼーロータイたちはイエスの運動から去って行ったが、バプテスマ的民衆、いわゆる「アム・ハ・アレツ(地の民)」たちがこれを継承し、原始キリスト教団の平等的共同生活を形成してゆく。
パウロは原始教団の持っていた二面性を巧みに運用、継承し、一方では律法の否定を媒介として差別の否定を民族差別や階級差別の否定にまで拡大し、もう一方では原始教団の社会的、政治的無関心を支配者への服従という論理にまで深める。

▼今となっては古い本だが、キリスト教の外部から、歴史家として遠慮会釈なしにイエスを扱った本として、今でもその姿勢には学ぶべきものがある。
▼「キリスト者で、イエスの問題にも深い関心をもち、この重要な問題の歴史的解明を当然なさらねばならない日本の西洋古代史の専門家たちが、なぜか、この問題をさけているかのような現況のなかでこそ、本書がかかれねばならなかった理由がある」(p.222)。
▼しかし、イエスユダヤ人であったということすら認めたがらないクリスチャンは多いのではないか。