本の覚書

本と語学のはなし

本の歴史/ブリュノ・ブラセル

 写本は初め巻物が主流であったが、やがて紙を束ねて折った冊子(コデックス)が登場し、今日の本に近いものが出来上がる。キリスト教の文書は主としてコデックスで保存されたようだ。
 15世紀、グーテンベルク活版印刷を発明する。彼について確かなことはほとんど分かっていないらしい。だが、この新しい技術がなくては宗教改革は起こらなかっただろうし、起こったとしても成功はしなかったかもしれない。
 学者が印刷業に携わることも多かったという初期の出版業はとても熱い。絶対王政時代の規制によって危機は訪れるが、海賊版は横行した。やがて規制は弱まり、啓蒙思想の時代に突入する。かつての聖書に代わり、出版の頂点に君臨したのが『百科全書』であった。

 ところで、18世紀の本屋に行くと、表紙の付いた本もあるが未製本のものもあった。装幀は読者が専門の職人に依頼することの多かった時代なのである。特にフランス人は工芸品として、あるいは美術品としての書物にこだわったようだ。日本語版監修者の荒俣宏が、イギリス人書誌学者アンドル・ラングの言葉を紹介している。

イギリスでは本を読むのに図書館を利用するが、フランス人はかならず趣味に合った革装の美本を買いこむ。イギリスでは、本といえば一週間か二週間楽しみ合うためのゲストでしかないが、フランスでは生涯の友となる。〈物〉としての書籍に対するフランス人の感覚は、もともと印刷物をフェティッシュ視する習慣のないイギリス人にはとても理解できない。(p.134-135)


 図版が多くてとても楽しいし、資料篇のいろんな文章の抜書きも面白いのだけど(特にロラン・ド・ラ・プラティエール夫人の『回想録』など)、残念ながらフランス革命の辺りまでのことしか書かれていない。その後の印刷技術の推移についても、電子書籍の登場のことも触れられてはいない。
 初期の印刷書籍は写本の模倣であったが、やがてその特性を発展させて行った。電子書籍も現段階ではまだ紙の模倣の域を出てはいないのかもしれない。しかし、いずれは独自の進化を遂げるだろう。そんな展望をおぼろげに感じさせる程度である。

 足りないところは、他の本で補おう。しばらく本の歴史にこだわってみたい。

本の歴史 (「知の再発見」双書)

本の歴史 (「知の再発見」双書)