本の覚書

本と語学のはなし

サムエル記メモ(ほぼ引用だけ)

ヤハウェの霊はサウルから離れ、ヤハウェからの悪霊が彼をおびえさせた。(サム上16:14)

 岩波の聖書翻訳委員会訳。ヤハウェ*1は良い霊だけでなく、悪い霊をも自在に操っていたという。
 以下は分冊版(『旧約聖書Ⅴ サムエル記』)の解説からの引用。

悔いるヤハウェと同じくらい興味深いのは、サウルを苦しめた悪霊に関するサムエル記の説明である。人々はサウルをたびたび襲う発作を悪霊のせいにしたが、問題はその悪霊がどこから来るかである。ヤハウェが本当に善なる神であるなら、なぜこの世に悪があるのかは、ヨブ記詩篇などの旧約聖書の他の書物でも問題にされている重要なテーマであり、後世になるとこの世のすべての不幸や災いの原因をいわゆる悪魔や悪神に帰したりするが、ヤハウェだけが神であると信じ、ヤハウェ以外の神の礼拝を禁じる立場からはそうした便利な解決策を採用することはできない。
このジレンマをどうするか。サムエル記はなんと、サウルを苦しめた悪霊はヤハウェから来ると語る。「ヤハウェからの悪霊」がサウルをおびえさせ、「神からの悪霊」がサウルを襲って苦しめたのである(サム上16:14、16:15-17、18:10)。ヤハウェのもとからやって来る悪霊を、一体誰が避けられよう。物語の聴き手や読み手は、いつの間にか発作的に槍を振り回しているサウルに思わず同情を覚えている。サムエル記の大胆な神理解をここにも見ることができる。(p.302)

 ちなみに、霊はヘブライ語でルーアハという。七十人訳を見ると、ギリシャ語ではプネウマが使われている。もちろん、キリスト教徒が信じる聖霊の霊と同じ語である。

*1:イスラエルの神を指す固有名詞。ヘブライ語聖書の伝統においては、みだりに神名を口にすることを憚り、神聖4文字をアドナイと読み慣わしている。日本語訳でも、文語訳のエホバ以降は、通常「主」と訳される。

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