本の覚書

本と語学のはなし

購入6-8

Basics of Biblical Aramaic: Complete Grammar, Lexicon, and Annotated Text

Basics of Biblical Aramaic: Complete Grammar, Lexicon, and Annotated Text

 Pelt『Basics of biblical Aramaic』。聖書アラム語の文法。旧約聖書に現れるアラム語の章句をすべて注釈付きで掲載してくれているのがありがたい。
 実は、ギリシア語で書かれた新約聖書にも、ごくわずかながらアラム語が登場する。たとえば、マルコ5:41のイエスの言葉。

καὶ κρατήσας τῆς χειρὸς τοῦ παιδίου λέγει αὐτῇ· ταλιθα κουμ, ὅ ἐστιν μεθερμηνευόμενον· τὸ κοράσιον, σοὶ λέγω, ἔγειρε.


そして、子供の手を取って、「タリタ、クム」と言われた。これは、「少女よ、わたしはあなたに言う。起きなさい」という意味である。

 しかし、この本では新約聖書の方までは扱っていないようで、「タリタ」は巻末の語彙集にも見当たらない。「クム」が載っているのは、旧約で使われているからに過ぎない。


新約聖書ギリシア語小辞典

新約聖書ギリシア語小辞典

  • 発売日: 2002/02/01
  • メディア: 新書
 織田昭『新約聖書ギリシア語小辞典』。コイネーの勉強は後回しにして、ともかくも手持ちの知識だけで読み進めている。ただ、聖書のためにLiddell & ScottのIntermediateを引くのは面倒くさいし、これはやはり古典を読むためのものだから、新約に特化したハンディな辞典を使うことにした。
 「タリタ」や「クム」のような音写されたアラム語についても、きちんと説明がある。固有名詞が載っているのも嬉しい。Intermediateではマリア(もしくはマリアム)すら引けない。

 ラテン語訳と英語の欽定訳を参照している。
 今のところ特に問題はない。ヘブライ語の人名は、イエスや主格がギリシア語に似ているもの以外、格変化をしないようだ、ということくらいしか、古典語との違いを見出せない。ギリシア語は定冠詞が代わりに格変化してくれるからいいが、冠詞を持たないラテン語はちょっと苦しそうだ。

Τοῦ δὲ Ἰησοῦ Χριστοῦ ἡ γένεσις ὅυτως ἦν. μνηστευθείσης τῆς μητρὸς αὐτοῦ Μαρίας τῷ Ἰωσήφ, πρὶν ἢ συνελθεῖν αὐτοὺς εὑρέθη ἐν γαστρὶ ἔχουσα ἐκ πνεύματος ἁγίου.


Iesu Christi autem generatio sic erat.
Cum esset desponsata mater eius Maria Ioseph, antequam convenirent inventa est in utero habens de Spiritu Sancto.


Now the birth of Jesus Christ was on this wise: When as his mother Mary was espoused to Joseph, before they came together, she was found with child of the Holy Ghost. (Matt1:18)

 テキストをどのように発音したらいいだろうか。世界を見渡しても、一般的には古典語読みが主流である。しかし、ギリシア本国では現代語音で発音する。しかも、その方がコイネー期の発音に遥かに近いらしい。
 旧約聖書は現代語音で読むと決めている。漢詩も出来るだけ現代語音で朗読したいと考えている。が、ギリシア語は古典期の発音に愛着がある。ホメロスは古典語、新約聖書は現代語の発音、と使い分けをするのがいいのだろうか。迷いはあるが、暫くそれで試してみる。