- 作者:吉田 加南子
- 発売日: 2008/09/01
- メディア: 単行本
タイトルにふさわしく、短くやさしい詩が多い。けれど詩の本質を鋭く突いたものばかりで、優雅なお茶のひとときと洒落込むためのアクセサリーではない。
ランボーの「感覚」(堀口大學訳では「感触」)は先日引用した。ここでは、短くて入力しやすいので、アンドレ・デュブーシェの「流れ星」を。
MÉTÉORE
L’absence qui me tient lieu de souffle recommence à tomber sur les papiers comme de la neige. La nuit apparaît. J’écris aussi loin que possible de moi.
流れ星
わたしの息である不在がまたふりはじめる
紙のうえに 雪のように 夜が現れる
わたしは書く 能うかぎりわたしから遠く
タイトルの下にある空白は、「沈黙という声、生まれようとしている声の緊張したエネルギー」であるという。最後の一文の解説を書き抜いておく。
詩を書くとき、わたしは、わたしから遠いのです。わたしがわたしにのみ、ふれている、のではなく、わたしならざる不在の他者にふれてこそ、わたしがわたしから離れてこそ、詩は、存在と非在をつきぬけて、降りおちてくるのですから。
けれど、不在の他者は、あくまでも他者。詩という奇蹟、詩という流れ星の一瞬のきらめきのうちに、わたしは、また、わたしにかえされています。詩の終わりは、あらたな断絶、あらたな沈黙のはじまり。そして沈黙は、あらたな詩への道。雪の一片一片のように、一瞬の断片でしかありえず、しかし、だからこそ、この世界に穴をあける、詩への。