『フランス詩のひととき』を読んでいたら、懐かしい詩に出会った。ランボーがこれを書いたのは十五歳の頃、私がこれを読んだのはもう少し若い頃である。
SENSATION
Par les soirs bleus d’été, j’irai dans les sentiers,
Picoté par les blés, fouler l’herbe menue :
Rêveur, j’en sentirai la fraîcheur à mes pieds.
Je laisserai le vent baigner ma tête nue.
Je ne parlerai pas, je ne penserai rien :
Mais l’amour infini me montera dans l’âme,
Et j’irai loin, bien loin, comme un bohémien,
Par la Nature, ―― heureux comme avec une femme.
感 触
夏の夕ぐれ青い頃、行こう楽しく小径沿い
麦穂に剌され、草を踏み
夢心地、あなうら爽に
吹く風に髪なぶらせて!
もの言わず、ものも思わず、
愛のみが心に湧いて、
さすらいの子のごと遠く僕は行く
天地の果てしかけ 女なぞ連れたみたいに満ち足りて。
私が読んだのは堀口大學の訳であった。今は手元にないので、ネットで探してみた。
昔は第二連、特に最後の「女なぞ連れたみたいに満ち足りて」ばかりを口ずさんでいたのだけど、原文で読んでみてセンセーションを感じたのは第一連の方であった。夏の夕暮れ、まだ闇になり切らぬ頃、ひとり麦畑を歩いてゆく。麦穂につつかれ、足の下にはみずみずしい草の冷たさ、無帽の頭は髪を風になびかせ、麦畑もそよぐ。幸福だなどと言う前の、幸福の予感。今はこちらの方が好きなのだ。
音の選択も絶妙だと思う。