一ノ瀬恒夫『ドイツ詩学入門』。大学書林の対訳叢書と同じ新書サイズ。ドイツの詩は形式の上から見ると、音の強弱を組み合わせたリズムと、行末の響きを合わせる脚韻によって成立することが多い。それを分析するのが詩学である。
訳してしまえば他愛のない詩でも、原文にはそれなりの秘密がある。『ファウスト』に挿入されたゲーテの「望楼守リンコイスの歌」の最後の四行。
Ihr glücklichen Augen, おまえたち幸福な目よ、
Was je ihr gesehen, かつて見たものはそのものが
Es sei, wie es wolle, たとえ何であろうとも、
Es war doch so shön ! なんと美しかったことか!
弱強弱のアンフィーブラヒスを二つ重ねて一行としているのはよいとして、それまできれいに韻を踏んできた詩が、ここに来て、引用部の一行目と三行目では完全に脚韻が破綻し、二行目と四行目も辛うじて不純な unrein 韻に逃れつつ、不気味な余韻を漂わせる。決して無邪気な人生讃歌ではない。そんなことを、『聞いて読むドイツの詩』の野村修は指摘している。
韻律を学ばなければ、詩の理解は浅くなる。
ドイツ詩学入門 (DaigakusyorinーBu¨cherei)
- 作者:一ノ瀬恒夫
- 発売日: 1995/06/01
- メディア: 単行本
鈴木日出男『古代和歌の世界』。共同性に着目した和歌論。和歌の歴史や技法にも触れられており、入門書としてちょうどよさそう。
- 作者:鈴木 日出男
- メディア: 新書
日本古典文学大系の『日本書紀』上下。旧版なので安く入手できた。古いことは古いが、まったく読まずに売られたようで、まずまずの状態。内容は現在の岩波文庫版とほぼ同じではないかと思う。現代語訳は後で入手する予定。『万葉集』と『古事記』だけでなく、『日本書紀』もぜひとも読まねばならない。読めばきっと面白いだろう。
- 作者:坂本 太郎
- 発売日: 1967/03/31
- メディア: 単行本
山口明穂『日本語の歴史』。出品者の評価では状態は「良い」、コメントは特になし。届いてみると、最初から最後まで、鉛筆、ボールペン、マーカーによる書き込みがかなりある。怠惰というべきか、悪質というべきか。本来ならば返品申請をして然るべきだ。が、今回はこれをこのまま読もうという気になった。
前の所有者はおそらく国文科の女子学生である。授業の教科書に指定されたので購入し、大して興味のある分野ではないけれど、単位を取得するために一生懸命講師の話を聞き、ポイントをメモしたり、重要な部分に線を引いたりした。その様子が手に取るように分かるのである。
どうせ無味乾燥の教科書である。講義の情景を想像しつつ、学生に戻った気分で読んでみるのも面白いかもしれない。