本の覚書

本と語学のはなし

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 一ノ瀬恒夫『ドイツ詩学入門』。大学書林の対訳叢書と同じ新書サイズ。ドイツの詩は形式の上から見ると、音の強弱を組み合わせたリズムと、行末の響きを合わせる脚韻によって成立することが多い。それを分析するのが詩学である。
 訳してしまえば他愛のない詩でも、原文にはそれなりの秘密がある。『ファウスト』に挿入されたゲーテの「望楼守リンコイスの歌」の最後の四行。

 Ihr glücklichen Augen,     おまえたち幸福な目よ、
 Was je ihr gesehen,       かつて見たものはそのものが
 Es sei, wie es wolle,       たとえ何であろうとも、
 Es war doch so shön !      なんと美しかったことか!


 弱強弱のアンフィーブラヒスを二つ重ねて一行としているのはよいとして、それまできれいに韻を踏んできた詩が、ここに来て、引用部の一行目と三行目では完全に脚韻が破綻し、二行目と四行目も辛うじて不純な unrein 韻に逃れつつ、不気味な余韻を漂わせる。決して無邪気な人生讃歌ではない。そんなことを、『聞いて読むドイツの詩』の野村修は指摘している。
 韻律を学ばなければ、詩の理解は浅くなる。

ドイツ詩学入門 (DaigakusyorinーBu¨cherei)

ドイツ詩学入門 (DaigakusyorinーBu¨cherei)


 鈴木日出男『古代和歌の世界』。共同性に着目した和歌論。和歌の歴史や技法にも触れられており、入門書としてちょうどよさそう。


 日本古典文学大系の『日本書紀』上下。旧版なので安く入手できた。古いことは古いが、まったく読まずに売られたようで、まずまずの状態。内容は現在の岩波文庫版とほぼ同じではないかと思う。現代語訳は後で入手する予定。『万葉集』と『古事記』だけでなく、『日本書紀』もぜひとも読まねばならない。読めばきっと面白いだろう。

日本書紀 上 (日本古典文学大系 67)

日本書紀 上 (日本古典文学大系 67)

日本古典文学大系〈第68〉日本書紀 下 (1965年)

日本古典文学大系〈第68〉日本書紀 下 (1965年)

  • 発売日: 1965/07/05
  • メディア: 単行本


 山口明穂『日本語の歴史』。出品者の評価では状態は「良い」、コメントは特になし。届いてみると、最初から最後まで、鉛筆、ボールペン、マーカーによる書き込みがかなりある。怠惰というべきか、悪質というべきか。本来ならば返品申請をして然るべきだ。が、今回はこれをこのまま読もうという気になった。
 前の所有者はおそらく国文科の女子学生である。授業の教科書に指定されたので購入し、大して興味のある分野ではないけれど、単位を取得するために一生懸命講師の話を聞き、ポイントをメモしたり、重要な部分に線を引いたりした。その様子が手に取るように分かるのである。
 どうせ無味乾燥の教科書である。講義の情景を想像しつつ、学生に戻った気分で読んでみるのも面白いかもしれない。

日本語の歴史

日本語の歴史