本の覚書

本と語学のはなし

坂の上の雲(八)/司馬遼太郎


 ようやく全巻読了。侵略戦争に対する国民戦争として、日本は勝つべくして勝った。そう言えなくもないかも知れないが、やはり負ける可能性の方が高い戦争だったのではないだろうか。
 単行本の第六巻(文庫版は全八巻だが、単行本は全六巻)に付されたあとがきより。

 日本の場合は明治維新によって国民国家の祖型が成立した。その後三十余年後におこなわれた日露戦争は、日本史の過去やその後のいかなる時代にも見られないところの国民戦争として遂行された。勝利の原因の最大の要因はそのあたりにあるにちがいないが、しかしその戦勝はかならずしも国家の質的部分に良質の結果をもたらさず、たとえば軍部は公的であるべきその戦史をなんの罪悪感もなく私有するという態度を平然ととった。もしこのぼう大な国費を投じて編纂された官修戦史*1が、国民とその子孫たちへの冷厳な報告書として編まれていたならば、昭和前期の日本の滑稽すぎるほどの神秘的国家観や、あるいはそこから発想されて瀆武の行為をくりかえし、結局は日本とアジアに十五年戦争の不幸をもたらしたというようなその後の歴史はいますこし違ったものになっていたにちがいない。(p.363-364)


新装版 坂の上の雲 (8) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (8) (文春文庫)


一巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130103/p1
二巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130114/p1
三巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130120/p1
四巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130130/p1
五巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130214/p1
六巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130227/p1
七巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20130315/p1

*1:参謀本部編纂『明治卅七八年日露戦争史』全十巻(大正二年刊)のこと。