本の覚書

本と語学のはなし

『赤と黒』を始める


 セリーヌの『夜の果てへの旅』がまったくはかどっていないので、気分転換にスタンダールの『赤と黒』を読むことにした。実は十年くらい前に一度挫折しているのだけど、今見ると、セリーヌの後ということもあるけど、至極まっとう、平易なフランス語であって、簡素な文体に耐えることさ出来れば、途中で投げ出すようなものではない。冒頭を書き抜く。

 La petite ville de Verrières peut passer pour l’une des plus jolies de la Franche-Comté. Ses maisons blanches avec leurs toits pointus de tuiles rouges s’etendent sur la pente d’une colline, dont les touffes de vigoureux châtaigniers marquent les moindres sinuosités. Le Doubs coule à quelques centaines de pieds au-dessous de ses fortifications, bâties jadis par les Espagnols, et maintenant ruinées. (p.19)


 翻訳は岩波文庫桑原武夫生島遼一のものを参照する。そういえば野崎歓の新訳は誤訳博覧会とこき下ろされていたことがあった。ずっとこなれているということでもあるのだろうが、原文と対照させるには桑原・生島訳の方が何かと都合がいいだろう。かつて魂を奪われてしまったのもこの訳であった。

 ヴェリエールの小さな町はフランシュ‐コンテのもっとも美しい町の一つにかぞえることができる。赤瓦の、とがった屋根の白い家々が丘の斜面にひろがっていて、そこへ勢いよく成長した栗の木の茂みが、丘のごくわずかな起伏までもくっきり描き出している。ドゥー川が、昔スペイン人に築かれ今はもう廃墟になった、町の城壁の下数百尺ばかりのところを流れている。(上p.21)


Le Rouge Et Le Noir (Folio)

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  • 作者:Stendhal
  • 発売日: 1998/10/15
  • メディア: マスマーケット
赤と黒〈上〉 (岩波文庫)

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赤と黒〈下〉 (岩波文庫 赤 526-4 9

赤と黒〈下〉 (岩波文庫 赤 526-4 9