本の覚書

本と語学のはなし

別冊太陽 森鷗外/山崎一穎監修


 新潮日本文学アルバム*1と同じように写真をたくさん掲載。あちらは一人の書き手によって生涯を編年体で追っていくが、こちらは伝記部分は簡略である代わりに、さまざまなテーマから複数の書き手が光を当て、今まで思っても見なかったような鷗外の像を結ぶ。
 女性作家、活動家らとの関係、妻志げの小説創作のことは、もっと掘り下げたものを読みたくなった。反戦茨木のり子が、なぜか鷗外贔屓であったのも面白い。
 鷗外の蔵書(東京大学総合図書館に鷗外文庫として保存されている)の一部が、画像データベース化されているのを知った。 *2書き込みや自作ノートを目にすることができる。
 センチメンタルな気分になるのは、晩年の鷗外が正倉院から娘杏奴に送ったゲンゲの押し花。陸軍を辞めた後、帝室博物館館長兼図書頭となった鷗外は(つまり、今の東京国立博物館で館長をしていた)、毎年正倉院曝涼のため奈良に出張した。杏奴が受け取った時、ゲンゲはまだその色を残していたが、二か月後に鷗外が死に、今写真に写るそれは茎も花も茶色一色になっている。
 全集を買っていながら今更こんなことを言うのもどうかと思うが、鷗外は私が想像していた以上に豊かで巨大である。