本の覚書

本と語学のはなし

砂の女/安部公房


 因習にとらわれた砂の部落でシーシュポスのような暮らしをする女。その蟻地獄に嵌り、何度も逃亡を試みては失敗する男。しかし、彼が帰ろうとする世界も本当に帰るに値する世界だったろうか。砂丘に地味な昆虫を探しに来たのは、地上の世界の諸々から逃れ忘却するためではなかったか。やがて男はいつでも脱走できる環境に置かれるが、手に入れた復路の切符は朽ちるに任せられてしまったらしく、ついに失踪宣告が審判される。
 中学の時に読んで面白がらなかったのは、男と女の関係のせいだろう。あるいは砂の穴の底を猫の額のように想像して、持病の閉所恐怖症を発動してしまったのかもしれない。今はいろいろと思い合わせられる。実際に地下生活を始めてしまったこと、段ボールを被り見られることのない見る目になったこと、冬の際限のない雪かきのために指の関節に故障を来したこと。またこんなことも思い出す。沙漠で朽ち果て骨だけになる、そんな死をいつも想像して慰みにしていたこと。


 今月に入って三冊目の安部公房。そろそろ腹がくちくなる。『方舟さくら丸』を終えたら休止して、禁断症状が現れるかどうか確認する。

砂の女 (新潮文庫)

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