本の覚書

本と語学のはなし

箱男/安部公房


 読了の表記を変えてみた。作品名の記事タイトルの下に、さらに著者、作品、出版社(海外作品なら翻訳者も)を書き入れていたのを止める。もともと読書日記はメールの体裁を取っていたので、私の文字だけで情報を不足なく盛り込む必要があり、今までその形式を変えることはなかったのだけど(出版年だけは途中から省略したが)、書誌情報の詳細を表示させることはできるし、今後キンドルで読書することがあったとして、わざわざ「キンドル版」とか書き入れるのも馬鹿らしい気がしたのだ。


 『箱男』。さすがに中学生の時のようなのめり込み方はしないけど、面白かった。
 箱をかぶって生活する男の話(特殊な一人ではなくて、どの町にもいるらしい)。語り手は元カメラマンだと言うが、カメラというのはもともとカメラ・オブスクーラというラテン語から来ていて、その意味するところは暗い部屋だ。その暗い部屋に閉じこもり、もっぱら見る目となって、自分は見られることがない。対象化されることなく、世界の意味連関から断ち切られた存在となること。
 しかし、単なる肥大化した覗く目となるだけの変態話で終わらないところが安部公房。見る側から見られる側へと堕したかと思うと、ヘゲモニーをめぐる闘争もめまぐるしくなり、とうとうどういうことなのかよく分からなくなる。解説を読んでなるほどと思ったり、そう言ってしまっていいのかしらと思ったり。また読んでみなくてはならない。

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)