本の覚書

本と語学のはなし

「弁明」「エチカ」「青春」「身心学道」


 毎週金曜日は塾なんぞ辞めてやると決意する。気分は1月以降に向かっていく。これまで出来なかったことをまたやりたい。生活をシンプルにと言ったところで、少しはポリグロットの真似事でもしなければ、潤いが保たれない。ギリシア語もラテン語もドイツ語も道元の日本語も、少しでも触れないことにはどうも具合が悪い。


 ギリシア語は『イーリアス』をやめて、『ソクラテスの弁明』を読むことにした。学生時代にも原文で読んだことがある。難しすぎることはないだろう。講談社学術文庫の三嶋・田中訳を参照する。
 弁明はのっけからソクラテスらしい皮肉な調子で始まる。〈ὀλίγου〉が効いている。

Ὃ τι μὲν ὑμεῖς, ὦ ἄνδρες Ἀθηναῖοι, πεπόνθατε ὑπὸ τῶν ἐμῶν κατηγόρων, οὐκ οἶδα. ἐγὼ δ´οὖν καὶ αὐτὸς ὑπ’αὐτῶν ὀλίγου ἐμαυτοῦ ἐπελαθόμην. οὕτω πιθανῶς ἔλεγον. (17a)

 アテナイ人諸君、皆さんが私の告発者たちの言葉によってどのような心持ちになられたか、私には分かりません。しかしいずれにしても、この私自身でさえ、かれらの言葉によって、すんでのところで自分がどういう人間なのか忘れてしまいそうになるくらい、それほど説得的にかれらは語ったのです。(p.9)


 ラテン語は『アエネーイス』をやめ、スピノザの『エチカ』に再挑戦。ラテン語は恐ろしく易しいのだが、問題は内容について行けるかどうか。何度か読みかけているけど、また冒頭から始める。岩波文庫の畠中尚志訳を参照する。

Per causam sui intelligo id, cujus essentia involvit existentiam, sive id, cujus natura non potest concipi nisi existens. (p.4)

自己原因とは、その本質が存在を含むもの、あるいはその本性が存在するとしか考えられないもの、と解する。(上p.37)

Ethik in geometrischer Ordnung dargestellt

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エチカ―倫理学 (上) (岩波文庫)

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  • 作者:スピノザ
  • 発売日: 1951/09/05
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エチカ―倫理学 (下) (岩波文庫)

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  • 作者:スピノザ
  • 発売日: 1951/09/05
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 ドイツ語はヘッセの『青春は美わし』の途中から。翻訳は新潮文庫高橋健二のものを参照する。いよいよアンナがやってくる。

Lotte war ungehalten und wollte mich zurechtweisen, da fuhr der Zug herein und hielt, und Lotte lief schnell hinüber. (p.52)

 ロッテはむっとして、私をたしなめようとしたが、そのとき汽車がはいってきてとまった。ロッテは急いで駆け寄った。(p.43)

Schoen ist die Jugend.

Schoen ist die Jugend.

青春は美わし (新潮文庫)

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 道元は『正法眼蔵第四巻 身心学道』の途中から。春秋社の新全集で読む。水野弥穂子の現代語訳がついている。

 「身学道」というふは、身にて学道するなり。赤肉団の学道なり。身は学道よりきたり、学道よりきたれるは、ともに身なり。(1巻p.150)


 いつまで続くだろうか。だが、たとえやめることがあっても、いつでもまた戻ってくるだろう。