本の覚書

本と語学のはなし

『モーム短篇選(下)』


●『モーム短篇選(下)』(行方昭夫編訳、岩波文庫
 上巻*1だけで十分だった。2分冊で大量に読む価値があるかどうか。一番面白く読んだのは「サナトリウム」であるけど、それもマンの「魔の山*2を思い出すからという理由である。


 いくつか誤植がある。「冬の船旅」の冒頭に「フリードリヒ・ヴェーバー丸がタヒチに着くまで…」とあって、上巻の最初にタヒチを舞台とした「エドワード・バーナードの転落」を配したように、下巻の最後にまたタヒチの作品を持ってきたのだなと行方の意図を想像してみたのだが、どうも様子がおかしい。「フリードリヒ・ヴェーバー丸はドイツのハンブルクと南米コロンビアの海岸沿いのカルタヘナとの間を定期的に往復する貨物船で」あって、タヒチに寄るはずなどなく、内容から見るにどう考えてもハイチのことでなくてはならないのだ。


 しばらく翻訳文学を読むのをやめて、英米文学と仏文学と日本古典文学の原典に努力を傾注する。古文を読む能力は予想以上に伸びてきており、優先順位では仏文学を追い越しそうな気もする。

モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫)

モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫)