本の覚書

本と語学のはなし

枕草子

「所につけては、かかる事をなむ見るべき」とて、稲といふものを取り出でて、若き下衆どもの、きたなげならぬ、そのわたりの家のむすめなどひきもて来て、五、六人してこかせ、また見も知らぬくるべく物、二人して引かせて、歌うたはせなどするを、めづらしくて笑ふ。(95 五月の御精進のほど

明順は「田舎は田舎なりに、こうしたことを見ることもいいでしょう」と言って、稲というものを取り出して、若い下層の女たちの、見た目にこざっぱりしたの、その辺の家の娘などをひき連れて来て、五、六人して稲こきをさせ、また見たこともないくるくる回る機具を、二人で引かせて、歌をうたわせなどするのを、珍しくて笑う。

 明順(あきのぶ)は中宮のおじにあたる人で、田舎といっても牛車で行ってもてなしを受け、その日のうちに帰って来ることのできる程度のところである。
 稲というものは珍しいものであったようだ。主食は米であったから米を知らないのではなく、米になる以前の姿を知らなかったということだろう。