本の覚書

本と語学のはなし

『海に住む少女』


シュペルヴィエル『海に住む少女』(永田千奈訳、光文社古典新訳文庫
 大人のための童話集。悪意や殺人まで描かれるが、全体に死に親しんだ者の孤独がにじみ出ている。
 「飼葉桶を囲む牛とロバ」はイエス誕生の場にいた2匹の動物の物語。牛とロバは草を食べて生きる。しかし、「野の花たちのなかにも、もう〔イエスの誕生を〕知っている者がいました。これらを食べるわけにはいきません。神を汚すことなく野で草を食(は)むのは、もはや簡単なことではありません」。とりわけ敏感な牛は、救い主のそばにある幸福だけを糧に生きていく。ヨセフとマリアがヘロデの手を逃れエジプトに行こうとする頃には、もう立ち上がることもできなかった。ロバはイエスをのせて行き、牛はそこに残りそして死ぬ。

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)