本の覚書

本と語学のはなし

L’Assommoir


 『居酒屋』の第一章をやっと読み終える。語学の訓練は若いうちに済ませておくべきで、私のような年齢になってからではもう遅い。タイムとディプロの理解はまだしも簡単かもしれないが、文学作品の味読などできるわけがない。ちびちび原典講読するより、もっぱら翻訳を利用してたくさん読んだ方がいいのではないか、とよく思う。しかし、中途半端に読めてしまうので、今さら棄ててしまうのももったいなくて、ずるずると原典にかかずらっている。

C’était sur ce pavé, dans cet air de fournaise, qu’on la jetait toute seule avec les petits ; et elle enfila d’un regard les boulevards extérieurs, à droite, à gauche, s’arrêtant aux deux bouts, prise d’une épouvante sourde, comme si sa vie, désormais, allait tenir là, entre un abattoir et un hôpital. (p.80)

この舗道の上、この熱気のなかに、子供もろとも自分は、一人ぼっちで投げすてられたのだ。ふと彼女は暗い恐ろしい予感にかられて、郭外大通りの右と左に目を走らせ、通りの片端と片端とで目をとめた。屠殺場と病院という通りの両端のあいだに自分の生活が締めつけられたまま逃げだしえなくなってゆきでもするような気持ちにおそわれたのである。(p.51)


 第一章の最後の文章。亭主に駆け落ちをされ、その相手の姉と洗濯場で乱闘をして、部屋に戻ってきたところである。朝見たと同じ情景が、今ははっきりと暗い予感を投げかける。
 Livre de Poche 版は、朝の段階で「ジェルヴェーズの運命は部屋と食肉加工場と病院の不吉なトライアングルの中にある」とか、駆け落ち相手の姉を打ち負かしたところで「『居酒屋』はこの女の復讐物語でもある」とか、ていねいな(あるいは余計な)注釈を付けている。
 あとは長い長い転落の物語になるのだろうけど、ここで一旦中断し、再びカポーティの『ティファニーで朝食を』に戻る。