本の覚書

本と語学のはなし

L’Assommoir


 文字が詰まっていて、知らない単語も多くて、思ったようには進まないけど、『居酒屋』を読むのが楽しい。文体が心地よいし、パリの描写がすばらしい。中学の夏休みに翻訳を読んだはずだが、最後の50ページがなかなか終わらなかったという記憶しかない。ロマン主義で耽美主義だった当時は、理解できるはずもなかった。しかし、今ならばゾラの問題意識にももっと共感できるだろうと思う。


 訳には時々気になる部分もあるが、重要なところを一つだけ指摘しておく。

les mères, en cheveux, en jupes sales, berçaient dans leurs bras des enfants au maillot, qu’elles changeaient sur les bancs ; (p.54)

髪とスカートのよごれた母親たちが、おむつをあてた赤ん坊を抱きかかえてあやしたり、ベンチの上でおむつをかえたりする。(14頁)


 ジェルヴェーズが部屋の窓から街の様子を眺める冒頭シーンの続きである。「髪とスカートのよごれた」は間違いで、帽子をかぶらず、よごれの染みついたスカートを履いている、と解するのが正しいと思う。en cheveux を小学館の『ロベール仏和大辞典』(電子版)で調べると、次のような解説が書かれている。

19世紀には、貴族、ブルジョアの婦人は外出時には必ず帽子をかぶる習慣があり、femme en cheveux(無帽の女)は身だしなみを顧慮するゆとりのない庶民の女を意味した。

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