本の覚書

本と語学のはなし

『Bonjour tristesse』


●Françoise Sagan 『Bonjour tristesse』 (POCKET)
 T社からはまだ連絡がないので、昼寝をしたり(昼夜逆転は完全には直っていない)、サガンを読んだりして過ごす。『悲しみよこんにちは』を読了した。


 そんなに長い小説ではないのに冗長であり、矛盾やら不可解な点も多く含んでいるように思う。全体の構成は意外なほど単純な二項対立で、私にはどうしても作り物のように見えてしまう。歳を取ったせいだか、時々流れのつかめなくなる文体のせいか、いらいらしながら読む場面もあった。多分サガンを読むには、もう少しフランス語の感覚を研ぎ澄まさなくてはいけないのだろう。


 翻訳は新潮文庫朝吹登水子のものを参照した。映画に合わせてだろうか、数年前に新訳に入れ替わって、今では絶版になっている。私も、この翻訳は既に役割を終えていると思う。フランス語の構文をほとんどそのまま日本語に置き換えた半世紀も前の硬い翻訳調で、訳語の選択も微妙にずれている。解釈の間違いもところどころあるようだ。


 ラストシーンより。

 Seulement quand je suis dans mon lit, à l’aube, avec le seul bruit des voitures dans Paris, ma mémoire parfois me trahit : l’été revient et tous ses souvenirs. Anne, Anne! Je répète ce nom très bas et très longtemps dans le noir. Quelque chose monte alors en moi que j’accueille par son nom, les yeux fermés : Bonjour Tristesse. (p.154)

 だが、私がベッドの中にいるとき、自動車の音だけがしているパリの暁方、私の記憶が時どき私を裏切る。夏がまたやってくる。その思い出と共に。アンヌ、アンヌ! 私はこの名前を低い声で、長いこと暗やみの中で繰返す。すると何かが私の内に湧きあがり、私はそれを、眼をつぶったままその名前で迎える。悲しみよ こんにちは。(157頁)

Bonjour Tristesse

Bonjour Tristesse

  • 作者:Sagan
  • メディア: マスマーケット

【参照した翻訳】

【参照しなかった翻訳】