本の覚書

本と語学のはなし

『日本辺境論』


内田樹『日本辺境論』(新潮新書
 日本人は辺境人であるという観点から論を展開し、徹底して辺境人であろうとメッセージを送る。これまでに多少とも内田の本やブログに親しんでいる身としては馴染みの話も多いのだが、新書は赤線だらけになってしまった。
 日頃日本人であることについて考えもせず、日本人であることに誇りも希望も持たず、日本人の嫌な面が目につきがちな私とっても、概ね得心の行く内容だった。日本人であれば大抵の人は、何が言いたいか苦労せずによく理解できるのではないだろうか。
 ただ「辺境」だけを補助線に一冊押し通すのは、やはり力技という感じがしてしまう。「機の思想」なんかは日本人論の枠を外し、それ自体を主題に論じた方がすっきりのではないだろうか。そもそも機が辺境に固有のものだとは、私には直ちに納得できる話ではなかった。
 日本文化とユダヤ文化との親近性の示唆については、もう少し突っ込んで考えていきたい。『私家版・ユダヤ文化論』やレヴィナス論など、今後はこの方面の内田の著作に進んでいくつもり。

わたしたちはすでにルールが決められ、すでにゲームの始っている競技場に、後から、プレイヤーとして加わっています。私たちはそのゲームのルールを、ゲームをすることを通じて学ぶしかない。ゲームのルールがわかるまで忍耐づよく待つしかない。そういう仕方で人間はこの世界にかかわっている。それが人間は本態的にその世界に対して遅れているということです。それが「ヨブ記」の、広くはユダヤ教の教えです。(124頁、太字部分は実際には傍点)

日本辺境論 (新潮新書)

日本辺境論 (新潮新書)

  • 作者:内田 樹
  • 発売日: 2009/11/16
  • メディア: 新書