本の覚書

本と語学のはなし

Confessions


 学生時代にギリシア語を教えてくれたY先生はアウグスティヌスの『告白』をぜひ読むようにと言っていたけど、日本語訳(中公バックスの山田晶訳)を読んでも眠くなるばかりだった。先生が『告白』の何を愛したのかはよく分からなかった。
 今ラテン語の原文で読んでみると、意外にもけっこう情熱的な文章で書かれていて、それだけで楽しくなってくる。一方、日本語訳(今回参考にしているのは岩波文庫の服部英次郎訳)ではアウグスティヌスの熱さがあまり感じられなくて、端正な古典に姿を変えているような印象を受ける。英訳の方がずっと感動的だ。気のせいだろうか。

ecce aures cordis mei ante te, domine ; aperi eas et dic animae meae : salus tua ego sum. curram post vocem hanc et adprehendam te. noli abscondere a me faciem tuam : moriar, ne moriar, ut eam videam. (1.5)

Behold, the ears of my heart are before thee, O Lord, open them, and say unto my soul, I am thy salvation. I will run after that voice, and take hold of thee. Hide not thy face from me : let me die lest I die, that I may see it. (上11頁)

主よ、ごらんのとおり、わたしの心の耳はあなたのみ前にある。その耳を開いて、「わたしはお前の救いであると、私の魂に言ってください」。わたしは、このみ声を追いかけ、あなたをとらえる。あなたのみ顔をわたしからかくさないようにしてください。わたしは、死ぬことのないように、あなたのみ顔を仰ぎ見るために死のう。(上12頁)